エースだったのにハシゴを外されて
──なぜ古巣の道警から敵意を持たれたのでしょう?
稲葉 僕が真面目に仕事をしていたからだと思います。シャブに手を出す前から嫉妬するヤツはいたから。
というか、シャブに手を出したのは、真面目に仕事をしていたのに、疎外されたことが大きいんです。シャブの使用については、何を言っても言い訳にしかならないけど、さんざん汚れ仕事をさせられた挙句に、ハシゴを外されて、自暴自棄になっていたんです。
かつての警察は「実績を上げれば手段は選ばない」という感じで、ヤラセ捜査も何でもアリでした。ヤクザはボコボコに殴ってよかったんです。確かにヤリ過ぎた面もあるんだけど、僕が命がけでヤクザから情報を取ってる時に、パチンコやって怠けてるのはたくさんいたんだから。
──なるほど。大学時代は柔道で名をはせていらっしゃったそうですね。
稲葉 しんどかったけど、柔道はけっこうちゃんとやってました。そのへんのヤクザなんか、2人いっぺんに引きずって連行したりしてね。「こらあ、殺せ!」とか言ってるヤツには「おう、言われなくてもぶっ殺したるわ!」みたいな(笑)
かなりムチャクチャやってました。それでも、銃や覚醒剤を摘発できれば評価されていたんです。
──ヤクザや風俗嬢をエス(スパイ、spyのs)として使い、時にはヤクザから提供させた「首なし拳銃」(所有者のわからない拳銃)の検挙でも実績を作っています。
稲葉 それは、上司がそう望んだからなんですが、一筋縄ではいかない連中を使うにはカネがかかります。打合せの時の食事のほか、生活の面倒を見ることもありました。この費用の捻出のために現職警官でありながら覚醒剤の密売に関与していくことになります。そして、仕事を干されたことで自らも使用に走ってしまいました。銃器対策のエースと言われていた自分が、ワールドカップの警備をさせられるなんて、ホントあり得ませんから。
僕がパクられた時に、知り合いのヤクザが「そりゃーイナバだって、辛いからイッパツ打ちたくなるだろう」と同情してくれていました。
──逮捕は、他ならぬエスだったWさんの告発ですね。のちに自殺されています。
稲葉 はい。不思議なことにWのことは今でも嫌いになれないんですよ。それに、パク(逮捕)られなければ、シャブはやめられなかったし。すべて流れは決まっていたのだと思います。