>  > ■ドラマ「ムショぼけ」 ー最終回(12月12日)ーまでの特別スペシャル!!! 砂浜の星屑たち【リサ編】
砂浜の星屑たち【リサ編】

■ドラマ「ムショぼけ」 ー最終回(12月12日)ーまでの特別スペシャル!!! 砂浜の星屑たち【リサ編】

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◯佐々木リサ


車内。運転席にはHIRO。助手席には、弟のナリキン社長。助手席のリサが真ん中から身を乗り出すように、運転席のHIROに声をかけた。

「ねえねえ!刑務所に14年も行ってたんだよね?マジどんな人なの?マジやばいじゃん?」

いつ以来だろう。こんなはしゃいだ気持ちになっているのは。

画面の向こうに映る自分。TVを観てもYouTubeを観ても、無理して演じている自分。いつしかそんな姿に、嫌悪感さえ抱くようになっていた。

それが自然と湧き上がる高鳴りを覚えている自分がいるのだ。

「クソみてえなヤツでさ〜どうしようもないヤツだよ。一応だよ。一応ね、歳が一つだけ上だから、オレが現役でバリバリの頃に、兄貴って呼んでやってたんだけどさ〜。マジ使えねえヤツなんだよね〜」

助手席のナリキン社長が吹き出した。

「リアルにHIROくんが現役バリバリの頃なんて、想像できないし」

リサもクスリと笑った。どうせまたHIROのウソだろう。HIROがリサの前に現れたのは、半年前。

ー砂浜ー

TV局からの帰り。マネージャーを置いてけぼりにして、何の目的もなく海を眺めていた。誰もいない6月の海。そこにただ一人いたのが、大声で喚きながら、浅い浜辺に飛び込む仕草を繰り返していたHIROだった。声をかけたのはリサからだった。

「あの〜ちょっと不気味なんですけど、何してんすかっ?」

HIROはびしょびしょに濡れた姿で、リサを睨みつけた。

「うっせえんだよ!向こう行けよ!みりゃわかんだろう!YouTubeとってんだよ!オレはYouTubeに命かけてんだよ!」

素朴な疑問だった。

「再生回数なんかいなんすか〜?」

底辺YouTubeであることは、海に飛び込む企画をやっている自体で、リサには分かり切っていた。だが、命までかけてると初対面の人間に豪語するのだ。何かあるのだろうかと気にかかった。

「はっ?20数回だよ!オレはね、その辺のYouTuberとはわけが違うんだよ!再生回数じゃねえの!クオリティを求めてんだよ!わかるか姉ちゃんクオリティだよ、クオリティ!」

クオリティもクソなら再生回数もクソだった。

「テメー、まだ夏が始まってねえ6月に海見にくるなんて、彼氏に振られたんだろう?ちゃっちいロマンスしやがって。へっ笑わせるぜ」

何が笑えるのか分からなかったが、彼氏と言うか人気アイドルのコジコジと別れたのは、本当だった。別に好きでもなんでもなかった。ただ猛烈にプシュされ、最後は向こうの事務所の社長まで登場してきたので、付き合っただけだ。

それで別れたら、ネットで嫌というほど叩かれた。それだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。

「お兄さんはロマンスしてんすか?」

HIROはハナで笑った。

「ケッ!姉ちゃんは何もしらねえんだな。リサっていんだろ。最近、コジコジと別れたあのリサだよ。超人気モデルのな。あいつ、ここだけの話しだけどさ、オレの彼女なんだよね〜。何笑ってんだよ!テメー週刊誌にネタ売る気じゃねえだろうなっ!」

「だって、あんたってさ〜。関西人でしょう?標準語のイントネーションおかしいもん!」

「うっせえよ!東京生まれの六本木育ちだよ!どうでもいいだよ、そんなことはよ!それより黄昏てる暇あんならちょっとは手伝えよ!」

iPhoneを渡されたのだ。

「じゃ行くぞ!3.2.1で撮れよ!ちゃんとやれよ!はい!さん...えっええええっっっっ!!!!!」

渡されたiPhoneをHIROに向けるために、サングラスを外した。

「あれっ⁈て言うか...ヤベッ!リサさんですかっ!!!!!超ヤベッ!オレマジやべ!ていうか申し訳ございませんでした!!!!!」

砂浜の上で土下座し出したHIRO。それがHIROとの出会いだった。そのまま、その場でコラボを申請され、あまりのしつこさにコラボしたら、HIROの YouTubeが炎上したのだった。

ただ悪い気はしなかった。嘘つきを隠して嘘を塗りたくって生きている大人たちより、全てがウソの塊で出来ているHIROの方が楽だった。

ー車内ー

「喫茶店でその人、突然暴れだしたりしないかな?」

ナリキン社長がHIROを見た。

「バカやろう!そんなことすりゃこうだよ!」

ヘッドロックの仕草をして見せるHIRO。どうせこれもウソだ。

「どっだっていいじゃん!そんなの!ムショ帰りってどんな感じなんだろね!リサ超知りたいんだけど!」

もう何もかも忘れてしまいたかった。いつも思い出すのは死んだ父の姿だ。

「こらっ!リサ!短いスカートはくな!言うてるやろがっ!」

関西弁の父。最後まで父が何をしていた人か知らないし、母は最後まで父を憎んでいた。

だけど、リサにとっては、唯一、リサのことを本気で叱りつけて、全力で守ってくれるたった1人の存在だった。

「おぅ、見えてきた、見えてきた!あの茶店だ!ナリキンちゃん!今日はカメラ頼むぜ!オレが祝儀袋渡すところがメインだからさ、ライブ配信だし、そこ抜きで宜しくね!」

「なんか悪い予感しかしねえよ〜オレ〜マジバット入りそうなんだけど〜」

「いいじゃん!いいじゃん!リサは一発ガツンと叱られないかな〜って超期待!」

予想以上だった。喫茶店に入店し、席に座るとHIROが殴られて、あっという間もなく店の外へと放り出されたのだった。

ー路上ー

慌てて喫茶店から飛び出すように逃げるリサとナリキン社長。リサは興奮していた。それはナリキン社長もだった。

「ナリ!見た見た見た見た見た見た!!!」

「うん!姉ちゃん!あれ!あれ!あれ!あの人!」

2人の声がハモリ合う。

「パパそっくりじゃん!!!!!」

「しかもパパと一緒のタバコ!!!セブンスター吸ってたじゃん!!!」

リサとナリキン社長は喫茶店から逃げ出しながら、キャッキャッと笑い合っていたのだった。

(文・沖田臥竜)

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