>  > ■ドラマ「ムショぼけ」 ー最終回(12月12日)ーまでの特別スペシャル!!! 塀の中の修学旅行【シゲ編】
塀の中の修学旅行【シゲ編】

■ドラマ「ムショぼけ」 ー最終回(12月12日)ーまでの特別スペシャル!!! 塀の中の修学旅行【シゲ編】

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面会室。シゲの彼女(あや)が呆れ返っていた。

「あんたね、ヤクザになるって何を考えてんの?」 

アクリル板越しに対面しているシゲの表情がムキになる。

「バカっ!あやテメーは本当使えねえな!ヤクザになるんじゃねえよ!もうオレはヤクザなんだよ!出たら陣内組の行動隊長を預かんだよ!だから、テメーも姐さんとして、シャキッとやれよ。じゃねえと、オレが若いもんに示しがつかないだからな」

示しどころかシゲはヤクザですらない。拘置所の雑居房で陣内宗介と同じ房になり、出たら一生、陣内について行くと言っているだけだ。

ひょっこりと現れた夜勤部長。

ーおいおいおい、気分はすっかり、ヤクザかい。陣内組ってそもそも、どこにあんねん。事務所は拘置所の雑居房か?笑われてまうど〜 ー

夜勤部長の姿は誰にも見えていない。

「呆れた、何が隊長よ。あんた、ただのオレオレ詐欺の出し子じゃん!もういい!あんたとは別れる!」

席を立つあや。会話を筆記している刑務官が2人のやりとりを聞いて、口元に手を当て笑いを堪えている。 

ーおい〜出し子〜担当も笑いを堪えとんど〜ー

夜勤部長の声は、シゲやあやには聞こえていない。

「ちょっちょっちょっちょっっっっと、待てよ!あや!オレにも中での立場ってもんがあんだよ!出たら、店でもやらせってやっからよ!あせんじゃねえよ。だから座れって!」

引き止めるシゲに刑務官が無惨にも、面会終了を告げた。

「はいっ。時間な〜」

刑務官とはいえ刑務所と違い、拘置所の刑務官はまだゆるい。

「おやっさん〜まだ、もうちょいいいじゃねえかよ。今、組内のでえじな話ししてんだからな。場面くらいよんでほしいぜ〜」

ー場面て。女に見捨てられそうになっとるだけやないか。それにしても刑務官にタメ口とは。陣内の舎弟になってえらい出世したみたいやの〜ー

やれやれとした表情を戻し、あやをみた。

「すまねえけどよ、顔があるからよ〜。中の奴らの分も売店でお菓子の差し入れ入れとってくれよ!あっ、それと、毎日手紙書いてこいよ!シゲさんの姐さんはしっかりしてまんなっ、てあやが言われんだからな!」

立ち上がったままの姿勢のあやが、キッとシゲを睨みつける。

「何が、店をやらせる、お菓子の差し入れしとけ、毎日手紙書いてこい、あやが言われる、よ!あんたマジ、頭大丈夫?2度と面会にも来るわけないでしょう!じゃ、さようなら〜。2度と社会に戻ってこないでね〜」

くるりと背中を向けて、面会室を出て行くあや。

「ば、バカテメー!ちょっちょっちょっちょっ!待って!あや!いいから聞けって〜」

ーシゲ〜お前は陣内に似て底抜けのアホやの〜。あやちゃんも2度と面会なんてきたらあかんで〜ー

肩を落として呆然と立ち尽くし、涙を浮かべるシゲの肩を刑務官が叩いた。

「ほないこか〜」

ー雑居房ー

房内を見渡すシゲ。

「あれっ?兄貴は?まだ面会?」

マンガ本を読みながらお菓子を食べていた丸顔の坊主頭がシゲを見た。

「まだ帰ってきてないで〜」

「かぁ〜!やっぱ兄貴はちげえな!普通だったら、10分の面会も兄貴だけは特別に30分だもんな。やっぱちげえや〜」

丸顔坊主の向かいに座っているシャクレが、面会から戻ってきたシゲにたずねた。

「ところシゲちゃん、彼女の面会どうやったんや〜?」

暇を持て余りしている被告人たちは、いちいち詮索好きである。

いつ間にか雑居房の隅に現れた夜勤部長。

ーシャバにもう2度と帰ってくるなっ、て別れを告げられました〜ー

「はっ?面会?ダメダメあんなクソ女。いちいち男の生き方に口挟みやがるんで、テメーなんて2度と来んなって、けえらせてやったよ。マジ使えねー。最後に差し入れだけでもいれたいって、ガキみたいなこと言いやがるからよ、怒鳴りあげて担当に止められちまったぜー」

シゲのオーバーリアクション。

ー涙浮かべてたのお前やないか。ウソつくにしても、もうちょっと遠慮してつかな、そのうち居場所なくなってまうどー

胡散臭そうにシゲの顔を見る同じ房の人間たち。

年配の被告人が本に目を落としたまま呟いた。

「案外、逆やったりしてな〜」

丸顔坊主が同調したような相槌を打つ。

「間違いない」

「ちょっと、マコさん!同業者やのに勘弁してくださいよ〜もう〜」

静かな廊下に笑い声が響き渡った。

ーお前ら、これから懲役行かなあかんのに、修学旅行みたいやないか。アホは呑気でええの〜ー

廊下を巡回していた正担当が、シゲたちの房の前で立ち止まる。

「おいおい、お前ら〜修学旅行と違うど〜。もうちょっと静かにしたれよ〜。正担のワシの顔を潰すようなことしたんなよ〜」

鉄格子が嵌め込まれた食器口から顔を覗かせる正担当に、シゲが口を開いた。

「何言ってんだよ、オヤジ!こんな辛気臭せえ修学旅行だったら、ハナから行かねよ〜!」

「間違いないわ〜。ワシも欠席させてもらいますわ〜」

夜勤部長も頷いている。

ーシゲ〜。ワシもお前が修学旅行に行くなら、休ませてもらうわ〜。て言うか、お前に残念なお知らせがあるど〜ー

「あっそうやそうや。お前ら、ちょっと残念なお知らせがあんぞ。

シゲが鼻で笑った。

「なんだよオヤジ、残念なお知らせって?もうここにいる時点で全員、残念じゃねえかよ〜」

房内に爆笑が起こる。シゲは確かにこのとに雑居房のど真ん中にいた。ちゃんと自分の居場所を保てていた。

7人部屋の内訳は、現役のヤクザが陣内を含めた3人。プラスアルファで、陣内の舎弟になったシゲを仮に現役の組員だと数えると4人ということになる。だが、拘置所も刑務所もそうだが、中で現役の組員から縁をもらい舎弟や若い衆になった受刑者や被告人のことを、身分帳には組員として記載し直しなどしない。中での暮らしでヤクザぶろうが何しようが、矯正施設を運営する官サイドは、ヤクザとして登録しないのである。

従って、中の暮らしでは正真正銘の組員が、どこの雑居房でも権力を握るのだ。

この雑居房では、ジギリをかけてきた陣内がトップ。本来なら、後の2人が年齢や社会での組織の序列に従って、順序が決められていくのだが、シゲが陣内の舎弟になったことで、ナンバー2には、シゲが急浮上していたのであった。

それを笠に着て、シゲは他の現役の組員たちにも、分かったような口を聞いてしまっていたのだ。

それが今から地に堕ちるとも知らずに。

「あのな〜シゲ。もう陣内はこの房に戻ってこうへんぞ〜」

シゲが立ち上がって、食器口に駆け寄ってきた。

「ど、ど、どういうことだよっ!!!なんで兄貴が帰ってこねえんだよ!!!マジで何があったんだよ!!!」

陣内が帰って来なければ、シゲの生活は一変する。シゲの後で、興味津々な目を向ける6人の被告人たち。

「ワシもよう知らんねんけどな、なんやしらんけど〜面会の帰りに、独居に行く言うて、転房することなったみたいなんや」

ーまさか、お前ら、陣内のこといじめとったんちゃうやろな?ー

「明日から、前科3犯の強姦魔をこの房、入ることなったから、仲良くしたってくれよ〜ほな、今日はワシはもう上がりや。シゲ〜修学旅行であんまハメ外しすぎんなよ〜」

日頃のシゲの態度の悪さから、正担当の言葉には悪意が満ちていたのだった。

次の日から、シゲに対するいじめが繰り広げられ、夜中に舎房のドアを蹴って、保護房へと吸い込まれたシゲは、そのまま懲罰を受けることになったのだった。

塀の中の生活は、気持ち良いほどの弱肉強食である。

また、廊下に笑い声が響き渡っている。どうやらまた騒がしい雑居房が出来上がったようだ。

ーおいおい、お前ら〜修学旅行と違うど〜。もうちょっと静かにしたれよ〜そうじゃないと、シゲみたいにいじめられてまうど〜

正担当が笑い声のする雑居房に歩いていったのだった。

(文・沖田臥竜)


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