>  > ◯ドラマ「ムショぼけ」平松演じる木下ほうかさんの凄み (文・沖田臥竜)
ドラマ『ムショぼけ』

◯ドラマ「ムショぼけ」平松演じる木下ほうかさんの凄み (文・沖田臥竜)

この記事のキーワード:
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

image0.jpeg

先日、木下ほうかさんがパーソナリティを務めるラジオに呼ばれて、寒くなってきた秋空の下、完全服装を間違えたよな〜と思いながら行ってきた。

ラジオで忘れられないのは、今から数年前。九州のラジオ番組に電話で生出演したときのことだ。放送自体は特段、私でなければこなせないというような内容でもなかったので無難にこなし、そこまでは全くもって問題がなかった。問題が生じたのはそのあとだ。電話越しに女性のスタッフからこんなことを言われたのだ。

「ギャランティのほうですが、本当にお気持ちだけになってしまうんですー」

別に私はギャランティをもらうために出たわけでもなかったし、通常、そういったものにギャランティなんて発生しない。

ましてや私ごときである。俳優やタレントでもないのだ。少し謙遜しながら、「いいですよ〜ギャラなんて...」と言っているにも関わらず、女性スタッフが食い下がってきたのだった。

「そういうわけにはいきません!」

一瞬、私は叱られているのかと思った。同時に何の権限があって、そこまでピシャリと言ってのけることができるのだろうかと、脳裏をかすめたのだが、よくよく考えると悪い話ではない。

では、口座番号をーと思うと、彼女は住所を教えてくれ、と言うのである。

確かに一度、ダメだというのに、勝手に書かれた新潮から取材協力費として現金書留で、10,000円が送られてきたことがあった。そのパターンかと思ったのだが、どこか何か嫌な予感を覚えた私は、ちょうどそのとき、たまたま居合わせた会社の若い子の家の住所を教えることにしたのだった。

そして後日。彼女は期待を裏切らなかった。

ギャラといえば、まだ元号は平成だったとはいえ通常、金だろう。違うのか。少なくとも私は、そういう認識を持っていた。

ーボス〜!九州のラジオ放送局からギャラが届きましたっ!ー

少し興奮気味の電話の向こうの若い子。「しょうぞう」に私はいくらか尋ねてみた。

ー明太子みたいです!!!ー

絶句した。よくもまあ、いけしゃあしゃあと、

ーそういうわけにはいきません!ーなどと、あそこまで強い口調で言い切れたものだと、言葉を失ったのである。

そして、脳内が通常運転を再開し始めた頃には、私の口角は上がり始めていた。

ーこれはおいしいー

明太子の話ではない。ネタになるとほくそ笑んでいたのだ。

そして数日後。私はTwitterで、そのことを投稿したのだった。するとすぐさま、九州のラジオ局から連絡がきたのだった。

ーすんまっしぇん!!!本当に説明不足で申し訳ありましぇんでしたっ!!!ー

もちろん私としてはネタだったのだ。笑い話のつもりだったのだ。

「いえいえいえいえいえいえ...こちらこそ、冗談のつもりだったんです...なんかすいません...へっへへへへ...」

私の人生、恐縮ばかりである。

ラジオと聞くといつもこの出来事を思い出し、微笑ましく当時を振り返るのであった。

木下ほうかさん演じる平松は、主人公の兄貴分である。木下ほうかさんのドラマ「ムショぼけ」に対する情熱は熱く、衣装合わせのときに北村有起哉さんの関西弁を一番心配してくれたのは、他ではない、ほうかさんだった。

そして、北村有起哉さんのセリフを全てほうかさん自らが練習用の素材として吹き込み、それだけではまだ足りないだろうと、ほうかさん自身の人脈を使い、若手俳優のミツイコウタくんを方言指導として、北村有起哉さんにつけてくれたのである。

現場ではいつも北村有起哉さんの影に、熱心に関西弁をレクチャーするミツイくんの姿があった。

ほうかさんはイン前に、私にこう言っていた。

「先生〜かるくお芝居で平松という役柄を超えてみせますよ〜」

その言葉通りだった。

平松は無論、私が生み出したキャラクターだ。

だから必然的に、頭の中には平松というイメージ像があった。

それをほうかさんは、現場でたった二言セリフを喋った時点で、全てを上回ってみせたのである。

ーこれが役柄を上回るということか.........ー

改めて学ばされた瞬間であった。

今、ドラマ「ムショぼけ」は、そうした、みんなの力によって、私の元から飛びたっていこうとしている。

その瞬間まで、私は東に西に走り回り、大きく羽ばたいていってくれるまで、「がんばれよ!」と背中をさすってやろうと思っている。

監督、藤井道人とたった2人で五反田の居酒屋で始まった物語だ。

ここまでやってきたのだ。関わってくれた人たちには、十分に夢も見させていただいた。それは十分すぎるほどにだ。ドラマだけでなく、小説においても、小学館の担当編集者の人を始め、今まで仕事してきた場所。出版業界の人たちが、媒体を問わずに、力を貸してくれている。

小説家になろうと思い20年が過ぎた。いつか本を出せたら、いつか売れたら、いつか映画になったら、いつか自分が書いた小説が話題になったらいいな、ただそれだけの20年だった。

物を書くというのは地道な作業で、楽しいなんてことはまずない。当たり前である。それが仕事というものだ。書くことが苦しくて何度もペンを折ろう、何度もペンを折ろうと考えながら、やってきた20年だったようにも思う。

ムショぼけには、どうせなら高く大きく、もう私が見えなくなるくらいに羽ばたいていって欲しい...。て言うか、私は確かラジオの話をしていなかったか...。すまんすまんである。

(文・沖田臥竜)


小説『ムショぼけ』沖田臥竜 【小学館文庫】
Amazonにて絶賛発売中
https://www.amazon.co.jp/%E3%83%A0%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%81%BC%E3%81%91-%E6%B2%96%E7%94%B0-%E8%87%A5%E7%AB%9C/dp/4094070613/ref=mp_s_a_1_1?dchild=1&qid=1627260828&s=books&sr=1-1
https://www.amazon.co.jp/%E3%83%A0%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%81%BC%E3%81%91-%E6%B2%96%E7%94%B0-%E8%87%A5%E7%AB%9C/dp/4094070613/ref=mp_s_a_1_1?dchild=1&qid=1627260828&s=books&sr=1-1