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セレブ

エッセイ『10年前の君へ』⑤文・沖田臥竜

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◯セレブ

人間を46年もやっているとつくづく愛想を尽かす。よくもまあ、あいもかわらず哀しんだり、悩んだりするものである。そんなものは、20年も前に、「こんなに辛いことはもうない...」と、へこたれていたはずではないか。それなのに、また同じようなことで、打ちのめされたりしている。
呑気なものである。


先日のことだ。いくら呑気とはいえ、一応、進化もしており、今のオレは1人でスーパーに行って、買い物をできるまでに成長したのである。

10年前のオレが知れば「マジか⁈」と腰を浮かすこと請け合いである。

25年前は1人で行けるところと言えば、せいぜいパチンコ屋くらいであった。それがスーパーに行けるようになったのだ。劇的な進歩と言っても言い過ぎではないだろう。

別に特別な日ではなかったが、気分でステーキでも焼いてやるかと、精肉部門の前で立ちはだかったオレは、貼り付けられ値段を見比べ、思案していた。
米国産の肉は量が多く、しかも国産よりも500円近く安いのである。国産牛は米国産に比べて、ずいぶんとこじんまりしており、値段も高い。

さて、どちらを選択するべきか思案してると、若作りしたセレブ感を遺憾なく発揮してきたババアが、なんの躊躇いも見せずに、更に値が張る国産牛を、なんの躊躇も見せず、無造作にさっと買い物籠に突っ込んでみせる芸当に、打って出てきたのである。

これはオレに対する完全なる宣戦布告である。
セレブババアはオレに挑発してきたのだ。
オレは鼻で笑った。みくびってもらっては困る。曲がりなりにも、オレだって少しは知られた作家だ。みくびってもらっては困る。セレブよりも、更に高額の肉に手を伸ばしてみせたのだ。

オレは立ち去るセレブの背中に、冷ややかな視線を向けていた。

帰宅後、オレは早速、フライパンに油をしき、火をつけた。今ごろセレブもどきも、オレが買った肉よりも安い肉で、「今日はステーキよ〜!」なんて言っているかと思うと、自然に笑みが漏れた。

ただオレに不覚があったとしたならば、肉の焼き方をマスターしていなかったことだろう。

お陰さまで、肉はコゲつき、とてもじゃないが、完食できるレベルには、達していなかったのだ。こんなことなら、セレブと張り合わず、米国産で始末してよかった。トホホである。

もうじき、ドラマ「ムシュぼけ」が放送される。
是非、ご覧いただければ、幸いである。


(文・沖田臥竜)

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