>  > ⑤■平成三大コールドケース『上智大生放火殺人事件』ー死体なきー
死体なき殺人

⑤■平成三大コールドケース『上智大生放火殺人事件』ー死体なきー

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◯死体なき殺人


未解決事件において、どれだけ状況的証拠が出揃っていても、検察が難色を示すのが「死体なき殺人」である。死体なき殺人の前で、何よりネックとなるのが「もしも死んだはずの人間が、実は生存していたらどうするのだ」という問題で、それが大きな壁となって立ち塞がるのである。

状況的証拠を丁寧に積み重ね、動かぬ証拠に基づいて、推認により公判の維持を可能と判断しても係争中。いや寧ろ判決を言い渡し、服役させた後に、死んだはずの被害者がひょっこり現れてしまえば、根底から裁判制度そのものを覆す可能性にまで及びかねない。

そのため、死体なき殺人を扱う場合、決め手となるのが、犯人もしくは共犯者しか知り得ない「秘密の暴露」となってくるのである。

それでも世田谷一家殺人事件やスーパーナンペイ殺人事件のように、遺体は無論のこと遺留品や指紋なども採取できながら、犯人へとたどり着くことのできずに迷宮へと入ってしまうケースも存在している。

上智大生放火殺人事件においても、小林さん一家の誰とも一致しない血液が検出されていたのだった。


『葛飾区柴又3丁目女子大生放火殺人事件
【概要】
1996年9月9日午後4時40分ごろ、東京都葛飾区柴又3丁目の小林賢二さん宅が全焼。駆けつけた消防隊員によって小林さん方宅2階から、上智大外国語学部4年生(当時)だった小林順子さん(当時21歳)が救助されるのだが、その時、順子さんは既に死亡。救出された際、被害者の順子さんの手は粘着テープで縛られており、首には刺し傷などがあったことから、警視庁捜査一課では、直ちに殺人事件として亀有警察署に特別捜査本部を設置。
だが、事件は未解決のまま23年が過ぎ「世田谷一家殺人事件」「八王子スーパーナンペイ拳銃強盗殺人事件」と並んで、平成三大未解決事件として扱われることとなった。現在でも専従班によって捜査が続けられている未解決事件』


火をつけた際に使用したと思われる1階玄関先に落ちていたマッチ箱からはこのとき、血液が検出されていた。
その後、2階で殺害された順子さんの遺体にかぶせられていた布団にも、微量の血液がついていたことが判明するのだ。

のちに導入された最新技術で検出鑑定したところ、この布団から採取された微量の血液とマッチ箱から検出された血液は、同じDNAであったことが証明される。

ここに至って、警視庁が「犯人のもの」と断定することになった。鑑定の結果、犯人はA型の男ということまで辿り着いたのだ。

つまり世田谷一家殺害事件同様に、容疑者として浮上してきた人物がいれば、その人物のDNAを採取し、即座に鑑定へとかけて一致するかどうかを判別できる状態になっているのだ。

しかし一向に容疑者が捜査線上に浮上していない。それは即ち、これまで悪戯に書かれた犯人を断定するかのような書き物が、如何に非現実的であるかという証明にもなるのである。

それはそうだろう。少しでも関与の疑惑があれば、警視庁が身柄を拘束し、その人物がシロかクロかはっきりさせることが出来るのだ。
確かに、未解決事件の真相として犯人を断定したかのような書き方は、読む側を惹きつけることが出来るだろう。
だが、仮にそのような人物が存在していれば、上智大生放火殺人事件のみならず、世田谷一家殺害事件もスーパーナンペイ殺人事件も未解決のままで、現在に至っていることはあり得ないのではないか。

殺害現場となった小林さん宅は、事件後、焼け落ちたまま捜査の検証などがなされ、それが終了した後も、しばらくはそのままの状態となっていた。
細い住宅密集地である。焼けたままの家が残り続けることは、治安上も安全上においても問題となりかねない。そのために、小林さん一家が私財でこれを撤去させたのだった。
そして跡地を地元の消防団に寄付し、今では消防団の詰所となっている。

そして、その軒先には、事件を決して風化させてはいけないという願いが込められた「順子地蔵」というお地蔵さんがまつられており、今でも順子さんのご両親をはじめ、関係者らが事件の解決を願い手を合わせている。


時として事件は、ひょんなことがきっかけで、大きなうねりを見せることがある。
今では、様々な最新技術も進み続けている。
殺人などにおける凶悪犯罪の時効は撤廃された。

警視庁捜査一課による粘り強い捜査は、今もなお続けられている。

(文・沖田臥竜)