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C級クラス

①■不可解な死に潜む闇 ーC級クラスー

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◯C級クラス


2006年4月。それは平日の朝の出来事であった。東京都文京区大塚の一戸建で暮していたA子さん宅から、「夫が死んでいる...」と110番通報が入ったのだった。
警視庁大塚警察署の署員が駆けつけたところ、確かにA子さんが言うように、1階リビングでA子さんの旦那Bさんが、仰向けの状態で首から血を流して死んでいるのが発見された。側には血のついた包丁が一本あった。そして遺体となったBさんの首からは血が流れていたのだった。傷はその首の一箇所のみ。厳密には、右の頸動脈が刃物で切られていたのであった。
警察署員が駆けつけた際、A子さんはひどく動転していた。それはそうだろう。2階で寝ており、起きて1階のリビングに降りてきたら、旦那のBさんが首から血を流して死んでいたと言うのだ。A子さんではなくとも誰だって、動転するはずだ。
ただ、漠然とした疑問は残った。


なぜ先に救急車を呼ばない。


朝起きて、2階から1階リビングに行くと、旦那が血を流して倒れているのだ。普通は慌てて「あなた大丈夫!」と横たわるBさんに駆け寄り、とにかく110番ではなく、119番通報しないだろうか。つまりは「あなたしっかりして!」と救急車を呼ぶのが普通ではないだろうか。


私もそう言う場面に直面したことがあった。それは今から約9年前のこと。私の携帯電話にひどく慌てた声で知り合いから連絡が入り、「包丁を持って暴れている!」と言うので、着の身着のまま呼ばれた現場へと大急ぎで向かったのだった。

その場所は当時住んでいたマンションから、時間にして僅か5分ほどの場所にあった。
砂壁には血がべっとりと飛び散り、畳の上で横たわる知人は血の海の中で、ピクリとも動く気配がなかった。私は思わず言葉を失った。凄惨の光景に私は絶句したのだった。その知人とは、つい数時間前に別れたところであった。目の前の現実がまるで、別世界のように私の目には映ったのだった。
すぐさま我に帰った私は、「救急車を呼べ!」と声の限り、叫んでいたのであった。体内に触れなくとも、一目見て目の前の知人が殺されていることは十分に理解できていた。
それでも「救急車を呼べ!」と叫ばずにはいれなかったのだ。そしてすぐに救急隊員が駆けつけてきたのだが、駆けつけてきた隊員も横たわる知人を見て、すぐさま動きを止めて、粛々と知人を運び出す用意をし始めたのであった。
決して、慌ててはいなかった。ただ粛々と運び出す為の準備をしていたのだ。なぜ慌てていなかったのか。それは既に一刻を争う事態を通り過ぎてしまっていたからだ。

運び出す頃には、パトカーのサイレンが近づいてきていることが、理解できていた。


もちろん人がとる行動とは様々である。A子さんが仰向けに横たわるBさんを見て、もうダメだと諦め110番入れたことも、特段、不自然ではない。

司法解剖の結果、Bさんの死因は首が致命傷になった失血死で、血液中からは覚醒剤の成分が検出された。
更に、Bさんは知人らからも借金を重ねており、暴力団関係者の中には、Bさんに「300万円の金銭を貸していた」と話す人物も存在していたのだ。覚醒剤の常習者であったことも後に判明している。
その背景からみても、当時、風俗店店長だったBさんは、確かにトラブルの渦中にいた可能性があったと推測できるだろう。
結果、警視庁が事件当時下した判断は「自殺の線が濃厚」というものであった。
一方で、事件性が全くないと結論づけていたわけでもない。
そうした経緯から、捜査書類は検察庁に送られることなく、長く理没することになっていた。
当然、マスコミなどにも当時、発表されていない。仮にBさんの死が何らかの事件の末に起きた出来事であったとしても、当時であれば余程、背景的に複雑化していない限り、C級事件として大した注目を集める要素はなかった。


だが2018年夏。ロッカーの中に埋もれていたはずの捜査書類が取りだされ、再開されるのであった。そして仮に事件であったとしてもC級クラスの事件だったはずのBさんの死が、もしも他殺ならば、C級では済まない変貌を遂げる要素が含まれていくことに気付かされていくのであった。

(文・沖田臥竜)