>  > ⑫■ 放火か事故か『新宿・歌舞伎町雑居ビル44人死亡火災』⑫佳境
佳境

⑫■ 放火か事故か『新宿・歌舞伎町雑居ビル44人死亡火災』⑫佳境

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◯佳境


物語も佳境へと差し掛かってきた。私は未解決事件を取材する際、可能性を潰して行く作業を行い、悪戯に仮説や憶測に囚われたりしない。好奇心などにも、決して惑わさるようなこともない。これまでどれだけの書き手が、自分の描くストーリーに酔いしれて、真実と掛け離れた結論に辿り付いてしまい、結果としてノンフィクションであったはずの内容をフィクションに変えてしまってきたことか。
それもまた一興なのだろう。

丁寧に潰していく作業を繰り返す中で、完全に潰しきれた点もあった。それは、板橋区の殺人事件後の僅か2週間後に、武蔵村山で起きた同じ犯行手口による殺人未遂事件である。

この事件は2003年11月に「不倫関係を続けるための身勝手な犯行」として、主犯格の男に懲役14年の実刑判決が言い渡されている。

結果、板橋区の事件とこの事件は全くの無関係であったことが証明されたのだが、ただ報酬として実行犯の暴力団関係者らには、2500万円が渡されていた。結局、殺しも金次第という点では、同じであったと言えるのかもしれない。

殺害を依頼した主犯格の男は、会社社長でもあった。会社の経営者でありながら、不倫という危うい恋愛が、人生を狂わせてしまったのだろうか。

【概要】
『歌舞伎町ビル火災
2001年9月1日午前1時ごろ、東京都新宿区歌舞伎町一丁目の雑居ビル「明星56ビル」(地上4階、地下2階)が爆発音を轟かせて出火。
東京消防庁は、梯子車などを含む消防車と救急車を約100台出動させたのだが、沈下させるまでに5時間40分を要することとなる。逃げ遅れた44人もの人々が一酸化炭素中毒や全身火傷を負い死亡。死亡者数で言えば、1982年2月に発生したホテルニュージャパン(東京)での火災(死者33人)を上回る戦後5番目の大火災』


逮捕後、頑なに事件の関わりを否定していたYであったが、WやKら4人の供述で、遂に往生したのだろう。その後に殺害を指示したことを認めて、懲役18年の実刑判決が言い渡されることになった。仮釈放の恩恵にあずかっていなければ、現在もまだ服役中ということになる。

Wもまた「丸山が死ねば遺産として笠原に流れる不動産の処分や管理を任せてもらえると思った」などと供述し、刑に服すこととなった。

丸山さんが殺害された後、Yに対するマインドコントロールが解き放たれた笠原は、そのまま丸山さんの工務店を継ぎ、1億4000万の資産を相続していた。そして逮捕後に警視庁の取り調べに対して「Yに騙された」と供述し、逮捕者の中では誰よりも高い(重い)無期懲役に服すことになる。
現在の無期懲役とは、世間一般的に考えられるよりもはるかに厳しい。ほぼ、終身刑と同義語と言っても過言ではないだろう。
父親の遺産を目当てに、犯した罪は生きている限り、獄中で償い続けることになったのであった。

こうして、板橋区の資産家殺害事件は幕を下ろすことになるのだが、下ろしきれない幕もあった。ただ、その幕は結局、上がりきることもなかったのだか、、、。


2001年9月の火災直後。その3ヶ月前に起きていた板橋区の殺害事件と関連し、捜査線上に浮上していた「ひまわりの会」の代表Yと、被害に遭った麻雀ゲーム店「一休」の実質的オーナーが縁者であったことは、容易に突き止められていた。

捜査は、多方面に渡って進められており、違法賭博を営み、暴力団とも繋がりがあった「一休」が、賭博を巡って第三者の恨みを買っていた可能性も調べられていた。「一休」に限らず、当時の歌舞伎町の背景としては、違法賭博店も数が多く、現に同業者による縄張り争いがあったことも判明している。
そうした一方で、賭博絡みとは違うあくまで別の怨恨による放火であったのならば、板橋の事件での成功報酬によるものではないかと捜査されていたのだ。

実際にISは、板橋区の丸山さん殺害で、警視庁による取り調べの際に、歌舞伎町火災についても尋問を受けている。だがISはそれを当日のアリバイを挙げて断固として否定してみせた。

そのアリバイが虚偽であったのではないかとの話しもあり、捜査一課ではISの身柄を火災事件でどうにか逮捕できないかと検討もされている。
しかし、検察サイドでは決定的な証拠もない上に、ISの自供が取れてもいない状態に、裁判維持は到底困難と判断。ISの火災による逮捕は見送ることになったのだった。
そしてISには、2004年1月に丸山さんの殺害のみで15年の判決が下された。そうである。ISはすでに野に放たれているのだ。

だが警視庁の粘り強い捜査も、ここが限界だった。
ISとしても、仮に犯人であったとしても、死んでも認めるようなことをしないだろう。
殺意の是非はともかく、仮にISによる犯行だったとして、もし仮にそれをISが一度認めてしまえば、44人の人々をこの火災によって死亡させたことになるのだ。事実であったとするば、「死刑」を持ってしても足りない身体となってしまうだろう。
仮にだ。ISが放火の実行犯だったとしても、命がかかっているのだ。そう易々と事件の関与は認めることはない。

そして、歌舞伎町ビル火災は迷宮へと入ってしまうのであった。

(文・沖田臥竜)