>  > ⑪■ 放火か事故か『新宿・歌舞伎町雑居ビル44人死亡火災』⑪成功報酬
成功報酬

⑪■ 放火か事故か『新宿・歌舞伎町雑居ビル44人死亡火災』⑪成功報酬

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◯成功報酬


板橋の事件。つまり丸山さんが殺害された事件が動いたのは、2003年1月8日のこと。日付をみても警視庁捜査一課では2002年の年末には容疑を完全に固め、年明けに一斉検挙を考えていたのではないだろうか。

この日に逮捕されたのは、殺害を依頼したW。Wから殺害を請け負った中国籍のK。Kから殺害の相談を受けた韓国籍で、もと暴力団のYK。そのYKの舎弟で塗装工のIS。同じく塗装工のANであった。

この時点で、高島平警察署に置かれたいた特別捜査本部では、事件に携わった5人の役割分担を完全に把握していたのであった。
そしてその中でも警視庁捜査一課が目をつけていたのが、丸山さん殺害の実行犯であったANであったのだ。
実行犯というのは、現場で一番リスクを背負うことになる。だが、ANが丸山さん殺害で手にしたのは着手金の1000万の中からの200万円だけ。本来なら成功報酬として残り200万円がANの懐に入る予定だった。それでも計400万ということになるのだが、殺人にたいする報酬としては、余りにも定額と言えることになるだろう。しかも成功報酬の200万は永遠に支払われてることがなかったのだ。

そこに歌舞伎町ビル火災の、動機があったのではないかと捜査本部は睨んだのだ。

【概要】
『歌舞伎町ビル火災
2001年9月1日午前1時ごろ、東京都新宿区歌舞伎町一丁目の雑居ビル「明星56ビル」(地上4階、地下2階)が爆発音を轟かせて出火。
東京消防庁は、梯子車などを含む消防車と救急車を約100台出動させたのだが、沈下させるまでに5時間40分を要することとなる。逃げ遅れた44人もの人々が一酸化炭素中毒や全身火傷を負い死亡。死亡者数で言えば、1982年2月に発生したホテルニュージャパン(東京)での火災(死者33人)を上回る戦後5番目の大火災』


5人が逮捕された当日、警視庁捜査一課は「ひまわりの会」の代表、Yの自宅にも家宅捜査をかけている。そして、最初の逮捕から2週間後となる1月23日。YとYの弟で、「ひまわりの会」のメンバーだったTNを殺人の容疑で逮捕。更にその2日後、丸山さん殺害に使用された自動式拳銃・マカロフと実弾8発を売り渡したとして、元暴力団組員が逮捕されている。

そしてYの逮捕からちょうど1ヶ月後の2月23日。「父親の殺害を依頼」したとして、笠原友子が逮捕されたのであった。

Yは逮捕後、捜査一課の取り調べに対して、丸山さんの殺害を指示したことを頑なに否認していた。だが、Wから殺害依頼を受けたKら4人は逮捕直後から殺害を認める供述しており、Wもまた逮捕後の聴取の際に「Yから殺害を指示された」と自白している。
この際、WはYの弟のTNから数回に分けて、丸山さん殺害の着手金となる1000万を受け取ったことも明かしており、その1000万円はそっくりそのまま着手金としてKら4人に手渡しているのだった。 

後日、丸山さんの遺産が入れば、当然、自分にも成功報酬が入ると考えていたのだった。
それが笠原のYに対する心変わりで、Wを始めとする Kら4人にも成功報酬は支払われなかった。
そのことが原因でKら4人の矛先は、殺害を計画したYに向いていたし、Wもまた同様であった。
YやYの弟のTNらからすれば、殺害後に遺産相続されたにも関わらず笠原が支払いを拒否したことが原因となるのだが、殺害を請け負い実行に移したKらには関係がない。Wを通じてYから持ちかけられた話しだ。笠原が払わないのなら、「お前たちが支払え」となっていくのは、当然の流れであったかもしれない。
そしてその対象者は、Yの身内にまで向いていたのではないかと見られていたのだ。その身内とはYの娘婿だったのではないかと考えられた。
何故、Yの娘婿に矛先が向けられたかについてだが、それは羽振りだろう。娘婿はグレービジネスに手を染めており、そこを脅せば不払いの成功報酬1000万円が支払われるのではないかと思ったのではないかと推測される。

そして「Yが支払えないなら、お前が払え」となっていったのではないか。

そのYの娘婿こそが、麻雀ゲーム店「一休」の実質的オーナーであった。つまり、火災が起きた「明星56ビル」の火元になったとみられる麻雀ゲーム店の実質的オーナーだったのだ。


歌舞伎町ビル火災で最も被害が甚大だったのが、3階の「一休」と4階のセクシーパブ「スーパールーズ」で、火元と見られたのが3階エレベーターホール。火元のちょうど脇となるのが「一休」の出入口付近となるのだ。 

「一休」は高配当レートの違法賭博店だった。
この「一休」の契約上の名義人はYの娘婿ではない。「明星56ビル」の所有者だった「有限会社 久留米興産」から借り受けた会社だったのだが、そこから更に又貸しを受けていたのが東京都内のリース会社で、つまりYの娘婿となるのだ。

そうした背景から、丸山さん殺害とビル火災が結びつけられていくのだ。
「成功報酬の不払いを恨み、Yらへの嫌がらせを考えた」のではないかと推測されたのだった。

実際にAN自身が逮捕後の取り調べで、「その後に追加で成功報酬が支払われる約束だった」と供述している。

仮にこうした推測が事実であったとすれば、不払いの200万のために火が放たれ、44人もの死者を出す大惨事となったことになるのだが、これも少し違うだろう。
ANはここでも実行犯ではなかったのか。本来なら、ANを含めてKらには成功報酬が1000万支払われる予定であった。Wから丸山さん殺害の依頼を受けたK。Kから相談を受けたもと暴力団のYK。そしてYKの舎弟AN。

「おい、お前、あそこの店に嫌がらせで火でも付けてこい!」

くらいの意思の疎通があったのではないか。丸山さん殺害の実行役であったANは、成功報酬とは別に、僅か200万でISと共に人を殺しているのだ。
兄貴分であったYKから、同じ金額の200万のために、厳密に言えば残りの成功報酬。つまりISにとっては、200万をきっちり支払わせるために、店に火をつける嫌がらせくらい簡単に実行できたのではないだろうか。

ただ、そうした仮説が事実であったとしても、あくまで嫌がらせで目的であったはずだ。
店が燃えて、ボヤが起きる程度と安易に考えていたはずだ。

まさか大量の黒煙や火柱が上がり、44人もの人々が命を落とす大火災になることまでは、想像すらしていなかったのではないだろうか。


(文・沖田臥竜)