>  > ⑨■ 放火か事故か『新宿・歌舞伎町雑居ビル44人死亡火災』⑨命の値段
命の値段

⑨■ 放火か事故か『新宿・歌舞伎町雑居ビル44人死亡火災』⑨命の値段

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◯命の値段

笠原友子にとって最初のつまずきがあるとするならば、嫁いだ先だったからもしれない。笠原の夫が所有していた建物には、複数の金融業者によって抵当が付けられていた。夫とやった共同経営も上手くいっていなかった。
状況的に多額の資金が必要だったのだ。

それでも救いの手は差し伸べられてくれている人がいる。それは実父である丸山寿治さんだ。丸山さんは最後まで娘を見放そうとはしなかった。実家に戻ってきて一緒に暮らそうと持ちかけてくれているのであった。

我が娘でなければ、いくら資産家とは言え、40歳過ぎて占いにハマってしまい、水晶玉やお札に1000万以上を出させるような人間と一緒に暮らそうとは考えもしないだろう。
だが笠原その親心を拒んだ。それどころか非現実的な狂気の思考に走って見せたのだ。
困った時の神頼みとばかりに、そこでも占いに縋ってしまった。そしてグループの代表であるYを心酔しきり、殺してでも父の持つ遺産の相続を目論んだのである。

そしてYと笠原によって、丸山さんの命の値段が付けられたのだった。


【概要】
『歌舞伎町ビル火災
2001年9月1日午前1時ごろ、東京都新宿区歌舞伎町一丁目の雑居ビル「明星56ビル」(地上4階、地下2階)が爆発音を轟かせて出火。
東京消防庁は、梯子車などを含む消防車と救急車を約100台出動させたのだが、沈下させるまでに5時間40分を要することとなる。逃げ遅れた44人もの人々が一酸化炭素中毒や全身火傷を負い死亡。死亡者数で言えば、1982年2月に発生したホテルニュージャパン(東京)での火災(死者33人)を上回る戦後5番目の大火災』

確かにこの頃、笠原は後の供述にもあるように、占いグループの代表Yを心酔していた。その笠原を上手く唆し、丸山さんを殺害することを決心させたのもYだろう。

だがそうして結ばれた関係は、大金の前で呆気ないほど簡単に崩壊してしまうのであった。
断定するわけでもないが、仮に一つの仮定として新宿歌舞伎町ビル火災が放火であるとするならば、2人の関係の崩壊が発端だった可能性もあったと言えるのかもしれない。


占いグループの代表のYとグループのアドバイザー的存在のWは、もともと麻雀仲間であった。
 
通常の人間にはない何らかの特別な能力を持っている者がこの世に本当に実在するとして、例えばその人物がギャンブルなどにうつつをぬかし、興じて見せることなどがあるだろうか。
特に占いといった特殊な能力によって、様々なことを言い当てれることができるはずの者がだ。

その論理に照らし合わせていけば、ギャンブルで勝ちを手にすることは容易に想像できる。
そしてそのような相手と対峙し、麻雀を打とうとするただの凡人が存在するだろうか。
相手は特殊能力者なのだ。
だがYには麻雀仲間が存在していた。特殊能力者であるクセにだ。そして、その内の1人がWである。胡散臭い人間の周辺者には、やはり同じような胡散臭い連中が集まっていた。


ただの麻雀仲間だったYとWが、一緒に商売をしていく間柄へとなっていくのは、笠原とYが知り合った翌年。1999年のことであった。

当時、不動産ブローカーをやっていたWは、Yから客を紹介してもらうようになっていく。WにYが紹介していた客とは、自分を崇拝している「ひまわりの会」の信者であった。
Wが扱っていた不動産を購入できるだけの資金を持った信者を人選し、Yが言葉巧みにその物件をブッキングさせていくのである。
もともとYに心酔していた信者を相手にするのだ。一般的な不動産の売買よりも上手くいく可能性は高いことになる。そしてそれが上手くいけば、Wが手にした紹介料をYと折半していたのである。そういうことを繰り返していたので、疑念を抱いた信者との間で、トラブルが生じていたのだった。
一方で、YとWの関係は深まっていき、いつしかWは「ひまわり会」のアドバイザー的立場になっていくのであった。
そして、アドバイザーに指示されたのが、渡辺さんの殺害依頼。

たび重なる凡ミスを犯し、殺害を急かされたWは次に別の暴力団関係者に連絡を取り、急ピッチで新たな実行犯を探し出すことになる。
そして見つけだされたのが、後に逮捕される中国闇社会に身を置く中国籍の男、Kだった。

Kは当時の国際密航組織だった中国の「蛇頭」を挙げて、「あそこの奴らにやらせる。渡航費用と拳銃を調達のために、まず100万を用立てくれ」と言い、Wがそれに応じるのである。
これに仲介料を加えて、Kには合計1000万の着手金が支払われた。

Wが持ち逃げされた着手金に続いて、水面下では丸山さん殺害に向け、ご本人の全く知らないところで命の値段が支払われたのである。

そして、この1000万が遂に丸山さん殺害を現実のものにしていくのだった。

(文・沖田臥竜)