>  > ③■ 放火か事故か『新宿・歌舞伎町雑居ビル44人死亡火災』③ バックドラフト
バックドラフト

③■ 放火か事故か『新宿・歌舞伎町雑居ビル44人死亡火災』③ バックドラフト

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◯ バックドラフト

刑事事件の裁判内容を耳にするたび、人が人を裁くことに限界が存在しているのではないかという思いが頭をよぎる。
私の脳裏に宿る限界を強く刺激するのは、犯行に至った経緯についてだ。裁判では、被告人の証言や状況的証拠などから、如何にストーリーに矛盾がないかを審理されていくのだが、そこに欠かせない軸となるのが動機や根拠ということになってくる。つまりは理詰めによって、誰しもが納得し得る物語がここで完成されてしまうのだ。
証言する内容に一般常識では考えられないことを述べれば、信憑性に欠けると結論付けられることが多い。それは聞く側の理に適っていないからだ。証言には、聞く側に一定の納得した言動が必要とされてしまう側面がある。だが考えてみて欲しい。
得てして犯罪という事柄は、辻褄の合わないところで起きているのだ。まだ年端もいかない子供ならいざ知らず、分別のある成人した人間が犯罪を犯す際、大なり小なり精神状態に異常を期しているものである。だからこそ事件が起きるのだ。
それをいくら聞く側が、論理的に納得しようとしてみたところで、真実に対して限界が生じてしまうのではないだろうか。


【概要】
『歌舞伎町ビル火災
2001年9月1日午前1時ごろ、東京都新宿区歌舞伎町一丁目の雑居ビル「明星56ビル」(地上4階、地下2階)が爆発音を轟かせて出火。
東京消防庁は、梯子車などを含む消防車と救急車を約100台出動させたのだが、沈下させるまでに5時間40分を要することとなる。逃げ遅れた44人もの人々が一酸化炭素中毒や全身火傷を負い死亡。死亡者数で言えば、1982年2月に発生したホテルニュージャパン(東京)での火災(死者33人)を上回る戦後5番目の大火災』


鎮火直後の東京消防庁の調べによれば、3階エレベーターホールのガスメーターから天井に伸びる配管が破れていることが確認された。
これによって捜査本部では、ガス漏れによる爆発とともに、放火の可能性もあるとして捜査していくことになるのである。
仮に初動捜査の段階で、事件の可能性を潰し切って調査を進めてしまっていれば、後から放火として見直すのは非常に困難な状態となりかねない。
この点からも放火を視野に入れて捜査を進めたのは、適切な判断だったと言えるだろう。

まず考えられたのが、ガス漏れによるガス爆発だった。ガスメーターの留め口は溶け落ちており、その部分からガスが漏れた可能性が当初、指摘されている。
だがガスメーターが入っていたボックスに残っていた燃えかすから、ガスメーターが溶け落ちた原因は、炎と化した強い火の勢いによるものだった可能性が高いことが挙げられた。
要するに、そこに本来の火元があったのではないかと考えられたのでる。

ガスメーター自体はアルミ製で、床から50センチほどの場所に設置されていた。そのアルミ製の接続部分は溶け落ちていたのだが、通常1000度近い高温で何時間も熱さない限り、アルミ製の接続部分が溶けるようなことはない。
過去の数多くある火災でも、この部分が溶けた事例もなかった。
この火災で火が激しく燃えていたのは、1時間ちょっとである。火災が発生した2か月前にガス会社が点検した時には異常がなく、ガスメーター自体の不具合が原因で起きた火災とは考えづらかったのだ。ましてや本当にガス爆発が起きていたならば、ビルの壊れ具合にも反映されていなければならない。

確かに外壁は吹き飛び、扉の一部が逆の方向に倒れるなどの現象は起きていた。が、それは火災が起きた後に窓が割れて大量の空気が入ったことで炎が一気に上がる現象。「バックドラフト」が起きたのではないかと考えられたのだ。

つまりは順番の問題である。ガス爆発が最初に起きたのではなく、先に火災が起こり、それが発端となって、燃え広がったのではないかと推測されたのだ。
それを裏付けるかのように、メーター近くにはビールケースや発泡スチロールの燃えかすが残されていた。

火の気のない場所に燃えかす。低いガス爆発の可能性。残された答えは、放火の疑いが強いというものになっていくのである。

(文・沖田臥竜)