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ー不定期連載ー

ー不定期連載ー沖田臥竜エッセイ「茜いろの日々」

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ここ最近の仕事ぶりで言うと、家が2、3軒は建っていてもおかしくないと軽く錯覚してしまうくらい、あっちこっちに飛び回って仕事している。
せっせせっせと慌ただしく走り回っている内に、気がつけばもう師走である。実に早いものである。

ふと我にかえり、ーそういえばいつ以来、休みをとっていないのかーと思い出そうとしても、思い出せないくらい休んでいない。

車を運転してくれている社員の子に後部座席から

「な〜オレずっと休んでないけど大丈夫か?」

と尋ねると、世の中とは実に薄情なものである。

「いつも休んで酒ばかり呑んでいるじゃないですかー」

私が仮に北斗神拳の伝承者なら、彼は間違いなく北斗百烈拳の餌食となっていただろう。命拾いをしよって...。

確かに酒は呑んでいる。しかも年々強くなっている。ただ遊んでいるわけではない。あくまで仕事の一環である、と言えば、最近の子はすぐに口答えをするのか。

「それを世間では遊びって言うんですよー」

なんとも世知辛い世の中である。北斗神拳の手解きを受けなかったことが悔やまれた。


9月下旬から新しい業界の仕事を2件受けていたので忙しさにも拍車をかけたのだが、その内の1件は短期集中のものであった。
分野的にも初めての業界だっただけに、ある程度の過酷さは予想していたのだが、その想像は遥かに上回った。
毎日、毎日、辞めたい辞めたい、もう辞めようと考えながら、過ぎた2ヶ月間だったような気がする。
見知らぬ街で陽が落ち始めたある日の夕刻。1人でコンビニへと晩飯を買いに行き、愛想もクソもない店員の姉ちゃんに「お弁当を温めます〜?」と舐めた口調で言われた際には、世の単身赴任のお父さんどもを代表して、「こらっ、くそメンタ。まずは、いらっしゃいませ、や。お前みたいなチャラチャラしたチビがそういう態度やから客もこんのじゃ!」と大説教してやりたい衝動に駆られたが、現実は、むすっとした顔でうなずき返すのが精一杯であった。
そして不運は重なった。宿泊していたビジネスホテルに戻り、コンビニのビニール袋から取り出して、ボソボソと頬張り始めて、すぐにそのことに気がついた。

お茶がない、、、。

多分この先も、あの時食べた弁当の味を忘れることはないだろう。 

とにかく一事が万事こんな調子での仕事に加え、慣れない仕事というのも重なって、ストレスも溜まっていたのかもしれない。
だが反面、そうした中で見た景色は大いに勉強になったのも確かである。
これまで経験したことない業界の仕事で、出会った人々との人間関係にひたむきさ。様々な人たちの仕事に対する熱意や想い。それを同じ空間で共有できたことは、大きな刺激になった。

書くという仕事は本当に地味で、華やかに映る時間が仮にあるとすれば、それはほんの一瞬なのである。あとはひたすら孤独と苦悩、自分との対峙なのである。

それは華やかに見える業界でも全く同じで、金銭では計り知れない尊さがそこにはあった。だからこそ、人の心を魅了することが出来るのか、と感じさせられたのだった。

過酷であった。業界の文化やしきたりの違いに戸惑いばかりであった。
だが、そうした仕事に携われたこと。終わってみると、いつの間にかそれが一つの誇りになっていた。


「ほんま忙しいわ。何せ夜があかん。明日がTV局の記者の若い子が取材と挨拶に来よるやろう、明後日が会食。明々後日も空港行ってから会食。で、怒涛の忘年会やろう。ほんま忙しいて、かなわん」

「それって、全く仕事してないですよね」

前方に視線をやりながら、運転席から冷めた声が突き刺さる。

ーそう言うな。人の分からんところで毎日、働いてんねん。人知れずっていうヤツやー

と心で呟き、クリスマスに染まる過ぎゆく街並みに目をやったのだった。


文・沖田 臥竜