その後も、すぎちゃんは数々の伝説を残したまま永遠の18歳を貫き通し、タバコをワンカートンパクっては警察に御用となってみたり、すぎちゃんの実家を訪ねた先輩に、「こらっ!おかん!先輩きてんのに挨拶せんかいっ!」と永遠の反抗期をひた走り続けた。
いつも我々、塚口出身の不良経験者に笑いを提供してくれていたのだ。
「昨日、すぎちゃんから合コン誘われてな、おもしろ半分に待ち合わせのバーに行ってみたら、相手がくるどころか、そのバー自体、すぎちゃん出入り禁止なっとって、店入った瞬間に追い出されたがな。そのあと、どうすんねんすぎちゃん言うたら、ナビオに行って暴走してくる言うて、電車乗って梅田に行ってもうたがな」
なんてことは、しょっ中であった。
最近では、こんなことがあった。地元塚口に行き、幼馴染で同級生のさゆりちゃんが経営しているカフェでアイスカフェオレを飲んでいると、そのカフェを手伝っているこれまた幼馴染で同級生のさなえちゃんがこんな話を聞かせてくれた。
「この前な、いきなりすぎちゃんがやってきてな、入口のドアから顔だけ覗かせてんやん。それでなんて言うたと思う。ジョニー来てる?やで。誰、誰、誰、ジョニーに誰?て思ったけど、聞き返すのもめんどくさいから、今日は来てへんでって言うたら、サンキュー言いながら、帰って行ったで」
私が大笑いしていると、今度はさゆりちゃんも私のテーブルにやってきて、こんな武勇伝を聞かせてくれた。
「その前なんかあれよ。ほんま普通のおばちゃんを連れてきてな、そこの2人がけのテーブルあるやん。そこにおばちゃんを座らせてな、他のお客さんもいてんのに、怒鳴り出すねんよ」
「なんでなん?」
「なんかすぎちゃんが偉そうに歩いてたら、後ろから自転車に乗ってきたおばちゃんとちょっとぶつかりかけてんて。それですぎちゃんがここまで連れてきて、おばちゃんに、どないしてくれんねん!て怒鳴り出しててん」
私の好奇心をくすぐった。
「そのおばちゃんの反応はどうやったん?多少なりともすぎちゃんにびびってたん?」
呆れたようにさゆりちゃんがこたえた。
「ビビるわけないやん。はっ〜ってため息つきながら、はいはいすいませんね〜て心底呆れられてた。なっ、さなえ、ほんまに迷惑そうやったやんなー」
さなえちゃんが頷く。
「あんまり話が長いから、すぎちゃんええ加減にしときや。もう帰り言うたら、おばちゃんの方が我慢してたんやろな。しまいに怒り出して、先に席を立って、自分の会計だけ済ますと帰っていったわ」
取り残されたすぎちゃんは、何故かえらく満足げであったという。
そんなすぎちゃんの悲報が届いたのは、その話しを聞いてから僅か一か月もしないうちであった。
3日続けて、朝まで飲んでバリバリの二日酔いの私の携帯電話に、さゆりちゃんの旦那で、37年の付き合いとなる尼崎で一番大きな運送屋の社長をやっている同級生のヒデキからLINEが届けられた。
最初にニュース記事が送られてきてたのだが、それはいくら脳内が18歳で止まっているとはいえ、人として最低な事件であった。
「ジョニー来てる?」
すぎちゃん名言集でさえ、その前では霞んでしまう。要するに笑えないのである。
(文・沖田 臥竜)