>  > 生野が生んだスーパースター男、文政パートⅢ ー空気を読まない闇営業ー 文・沖田 臥竜
ー闇営業の斡旋⁈ー

生野が生んだスーパースター男、文政パートⅢ ー空気を読まない闇営業ー 文・沖田 臥竜

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世間は芸人たちの闇営業問題で沸騰していた。世論というのは本当に恐ろしいもので、事務所を通さずに受けただけの仕事が、まるで大犯罪でも犯したかのように吊るし上げられ、非難轟々を浴びせ続けていた。
実際、私は闇営業問題について、様々なメディアに露出していたが、内心ウンザリした気持ちも持っていた。
そんな矢先であった。私の携帯電話に文政から電話が入ったのは。

なぜだろう。彼からの着信音だけは、他の呼び出し音よりもけたたましく聞こえてしまう。
以前、光熱費の話しになった際「ワシは話しがついとるからの〜」と誰と話しがついているのか知らないが、他人事のように言っていたのだが、もしかすると携帯会社ともあらゆる話しがついているのかもしれない。

ーアイゴ〜我がブラザー、TVようでとんな〜大活躍やないか〜ワッハッハー

電話の向こうの文政はえらく上機嫌である。

「なんや兄弟もTV観るんかいな。出たあて、出とんちゃうで。これも本を売る為の売名やがな」

実際にそうであった。メディアに露出するということは言わば諸刃である。メリットもあればデメリットもある。それでも本の営業につながればと思い、出演していただけで、本が売れて唸るような印税が入ってくれば、TVどころか電話にも出ない。

ー知っとるがな、そんなもん。兄弟は案外、デリケートやからのぉ〜。そんなんに興味がないやろが〜。それはええねんけどな、ちょっと頼みがあんねんー

文政からの頼みである。嫌な予感しかしない。

「なるべくやったら兄弟、その頼み聞きたくないわ」

私はアイスティーをストローで吸い上げながら、笑ってこたえた。喫茶店の室内は寒いくらいに冷房が効いていた。都内の喫茶店で携帯電話で喋っていると、直ぐにウェイトレスがやってきて、マナー知らずめとでも言いたげに眉間に皺を寄せてくる。が、私の地元の尼崎では、今でもヤクザがかけ合いをやっているような街である。携帯電話くらいでは誰も何も言わない。

ーそういいなや兄弟。実はな、ワシところのチビ(若い衆)が結婚式挙げるらしいんや。それで誰かお笑いの芸人を呼んでくれへんか言うてきとんねん。兄弟、誰か有名どころ何人か見繕って、結婚式に花添えたってくれへんか〜ー

思わず口に含んでいたアイスティーを吹き出した。
今、世間はそれで大騒ぎしているのである。ましてや闇営業問題の火付け役みたいな立ち位置になった私が声をかけて、来る芸人などいるはずがない。それでなくとも現在、次は我が身ではないかと芸人たちはピリピリしているのだ。この男は本当にTVを観ているのだろうか。

「あんな兄弟。メディアはそれで沸いとんねんで。それでなくともー」

文政が私の話しを遮った。

ー兄弟、みなまで言わんでかまえへん。そうやないねん。兄弟は何も話しの筋を分かってへん。半グレどもがな、銭を払うから、もうたもうてへんで問題なっとんのやろうー

それだけではないが、簡単に言えばそうである。そこから文政は自論を展開させた。

ーシノギとして呼ぶんやない。あくまで友達として祝儀を包んできてもらうんや。それやったら何の問題もない、ノープロブレムや。そもそもワシが銭なんてつけるかいー

最後は吐き捨てるように言ったのだが、ノープロブレムどころか、問題ありありである。口元に飛び散ったアイスティーをオシボリで拭きながら、彼らしいなと思った。

「兄弟、それやったらアレ呼んだらええやん。アレやったら来てくれるやろうし、盛り上がるやろう」

文政はそれでピンときたのでだろう。急に口調が真剣になった。

ー兄弟、あいつだけは絶対にあかんど。兄弟もあいつのことだけは、TVでも言わんとってくれよ。もちろん書いてもあかんど。あれは兄弟がワシにプレゼントとしてくれたんや。もうアイツはワシのもんや。そんな結婚式なんぞに呼べるかいなー

文政にもしっかりと分別はあるようだ。そこから文政はまるで何事もなかったかように、博打の話しをし始めたのである。

所詮、私たちはそんなものである。ことの良し悪しや世間の評判の外で生きている。その中でも私たちには私たちの仁義があって、大事なものの為には何からでも守ろうとするし、そこに是非は関係ない。
ただ、笑って生きていければ、それで良いのである。

文政の電話を切って喫茶店を出ると、額に汗が滲み上がった。いつの間にか夏がやってきていたようだ。私は手の甲で額の汗を拭いながら、照りつける太陽を見上げたのであった。


(文・沖田 臥竜)