ーでやな、そこでジャイアンの登場やがな。状況の分からんまま、Nが暴れてんのを見て、どないしたんNちゃん言いながら、逃げ惑うチビらを一緒になってどつきあげとんねんー
翌日、文政の電話で叩き起こされた私は、昨晩の状況を聞かされていた。
「で、兄弟、2人はそのあと落ち着いたん?」
ー兄弟、Nとジャイアンやど。落ち着くわけないがな。若いもんに総動員かけて、逃げるチビらを朝までしらみつぶしに探し回っとったがなー
まるでお祭り騒ぎのようである。その時、文政は何台もパトカーが派手にサイレンを鳴らす中で、爆睡していたという。私は2年間、文政と刑務所の2名独居で暮らしていたので、彼がパトカーのサイレンごときで起きないことを知っている。
ー流石にワシも2人に説教したがな。ええ加減にせえよ、ケンカするなとは言わんわい、でも手加減はしたれよっ言うてな。やないとワシが迷惑するやないかってなー
確かにNの狂犬ぶりとジャイアンの腕っ節には、手加減が必要である。
あとで一味から、ことの事情を聞いたクラクションは、早速、被害届を武器に金を要求しようと試みたのだが、今回ばかりは相手が悪かった。裏社会でもきっての不良債権である。ビタ一文払ってもらえるわけがない。しかもそれだけではなかった。
既にその時には、歩く情報機関。赤いシャツに緑のリュックサックを背負った赤シャツによって、これまでのクラクション一味の悪事を全て洗い出されていたのである。
どちらが損をするか考えるまでもあるまい。
ーま、そう言うこっちゃ。で、兄弟はいつ生野に遊びに来るんやー
と言いながら、何事もなかったかのように博打の話しが始まったのだった。
そう何もなかったのである。裏社会に根を張る男たちは、決して過去には留まっていない。昨日とて、所詮は過去の産物なのだ。
その日を境に、文政たちが懲役に行く以前の街並みに、戻っていったのであった。
文・沖田 臥竜