>  > 懲役に咲く!傑物ども 『関東大炎上篇⑤』 ー文政パートⅢー 文・沖田 臥竜
ー新たなる旅立ちー

懲役に咲く!傑物ども 『関東大炎上篇⑤』 ー文政パートⅢー 文・沖田 臥竜

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ー新たなる旅立ちー

Sと私は同級生で同じ尼崎の暴走時代からの付き合いだった。もう30年になる。
ヤクザ時代には、同じ代紋の下で汗も血も流しあってきた。
Sがいたからこそ、私はここまで頑張ってこれた。

「兄弟、また懲役やな」

朝焼けの中、2人で肩を並べて歩きながら、私はSに語りかけた。

「まあ、しゃあないんちゃう。全部は覚悟の上やで」

Sに哀愁なんて微塵もなかった。逆にSの声色は晴れ晴れとしていた。

「兄弟、オレには何もないけど、誰がおらんようになっても、オレはここでどんなことをしても文政の兄弟と九州の兄弟と帰ってくんのを待っとくから、また一からやろう。また一から始めたらええやん」

そう私たちには何もなかった。懲役から帰ってきて頃、私もSも何もなかった。今ではお互いに多くのものを抱え過ぎてしまってるが、帰ってきた頃は、本当に身体一つしかなかった。そこから始めたのだった。
私もSも懲役で失ったものはたくさんあった。だがそれも自分たちが選んだ道だった。私には多くの後悔があるが、Sは私とは違った。確かにSにも後悔はあったかもしれない。だがSはその後悔を認めるような男ではなかった。

「そうやでな。また一からやるだけやでな。でも兄弟、何も心配いらんで。兄弟はすぐ心配するし、怒り出すから、兄弟の方がオレは心配やわ」

Sはそう言うと、私の顔を覗きこみ、顔を綻ばせた。Sが言うように私は心配性だった。そして不安が募りに募ると、全てを投げ出して我慢しきれなくなるクセが私にはあった。

「あかんかったら、またヤクザやろか」

Sが笑った。

「それはもうやめとこ」

笑いながら、私が返した。

「そうやね。もうヤクザはええよな」

Sと私は笑いあったのだった。
この先の人生どうなるかなんて分からない。だけど今こうして生きている。時に社会の中で悪戦苦闘しながらも、立ち続けている。

Sが懲役へと旅立つ前に、ゆっくり2人で温泉にでも行って、酒を飲み交わしたいと思ってる。

文・沖田 臥竜