>  > 懲役に咲く!傑物ども 『関東大炎上篇④』文政パートⅢー 文・沖田 臥竜
ー終焉ー

懲役に咲く!傑物ども 『関東大炎上篇④』文政パートⅢー 文・沖田 臥竜

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ー終焉ー


今回もまた何者かに襲われたのは帰宅時であった。催涙スプレーをかけられ、激しい暴行を浴びせられた地元グループの幹部は、自分も硫酸を浴びせかけられることを想像したかもしれない。だが、今回は違った。硫酸ではなく、刃物で幹部の顔面を滅多斬りしたのである。
後にこの事件は殺人未遂として、扱われることになった。

もうその頃には、Yの地元グループのみならず、上野の中町通を狩り場として客を引いている別のキャッチグループですら、Sグループの従業員らの顔をまともに見ることができなくなっていた。

そしてとどまることを知らない一連の報復劇に終止符を打ったのが、警視庁であった。
Sを始めとしたSグループのメンバーらが次々に逮捕され、地元グループのYらも全て逮捕されていったのだ。

「兄さん、弁護士がいうには、兄貴が中でごっつい機嫌悪いらしいんですよ。なんとかなりませんかね」

Sの右腕である私の地元の後輩から、私の携帯電話に連絡が入った。Sは何度も何度も逮捕を繰り返されのち、いくつかの罪名で起訴されたのち、他者との接見を禁じられて東京拘置所に拘束されていた。
ただSグループの凄いところは、誰1人として事件どころか、取り調べ官の雑談にも応じなかったのだ。

「Sグループは、ただのキャッチグループなんかではない。Sを中心とした宗教団体だ」

取り調べにあたったある捜査員が漏らした言葉である。
それほどまでに、統制されていたのだ。

「わかった。来週、兄弟の裁判やろう。ちょっと兄弟の顔を見に行くわ」

後輩の電話を切ったあと、私はある番号を鳴らした。

ー兄弟かー!ワシは全く変わりないど。なんかあったんかいな〜ー

文政であった。その年の5月に5年の務めを終えて、社会へと帰ってきていたのであった。

「東京の兄弟が中で機嫌悪いらしいから、来週、裁判所まで兄弟の顔を見に行こう思うねんけど、兄弟一緒にどう?」

ーよっしゃわかった!花の都大東京やの!車やったら、2時間やのー

6時間はかかる。2時間なら新幹線よりも速い。だが文政にそういった質問は愚問であった。
文政に日時を伝え電話を切ると、私は九州の龍ちゃんの携帯電話をならしたのであった。


九州の龍ちゃんと乗り合わせて、裁判所についた時には、既に文政は到着しており、司法関係の見習いと思われる若い女性2人と携帯ゲームで盛り上がっていた。

「兄弟、えらい早かってんな」

「当たり前やがな。どうせ兄弟らは新幹線やろう。ワシの車の方が速いに決まっとるがな」

そんなわけはないのだが、文政がそういえば何だかそんな気がしておかしかった。

「花の大東京で4兄弟で揃うとわの。兄弟、ここ禁煙か?」

当たり前である。どこの世界も傍聴席は禁煙だ。

そんな会話を交わしていると、法廷の右扉が開け放たれ、刑務官に連れられたSが入廷してきた。
傍聴席に陣取る私たちの姿を見ると、Sは一瞬、驚きの色を浮かべ、すぐに口元を軽く綻ばせ小さく頷いた。
それを見て、私も文政も龍ちゃんも頷き返し、同時に席を立った。
一眼で良かった。一眼、Sの元気な顔を見るだけで十分であった。
事件についての真相なんて、私たちには関係がなかった。そこに言葉をいらなかった。

数ヶ月後、1000万を超える保釈金を積んで、Sは社会へと復帰してきた。

その日、4兄弟で尼崎に集まり、朝まで宴は続けられた。

そして最後はSと私の2人になったのだった。

文・沖田 臥竜