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平成20年9月

小説「忘れな草」第30話 沖田臥竜

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平成20年9月

前略
心淋しい日々が続いています。
何度も書いては書き直し、書いては書き直しを繰り返している内に、時間ばかりがいたずらに過ぎてしまいました。
身体の方、少しはよくなったでしょうか。
先日こちらに届いた封書とハガキはどちらも大切に読みました。
ハガキの文面には、
「病院と家とを往復する毎日だけど、大丈夫やから心配しないで」
とありましたが、その筆圧からも次に届けられた手紙の文字からも元気がないのがこぼれていて、今オレは凄く悲しくなっています。

同時にあらためてですが、あなたが社会から綴ってくれる手紙や、面会で見せてくれる笑顔が、こんなにもオレの心の支えになっているのだというコトを再認識させられました。
面会もそして手紙も届かない日、心はいつもからっぽのままです。
オレは無神経な男やから、気配りの足りない言葉を口にしてしまったり、知らず知らずの内にあなたの心を傷つけるようなコトを言ってしまっているかもしれません。
それにあなたの言う通り、すぐに悪いムシがでて、すねてまうしな...。
それが出てしまったのが、先日の面会です。
自分ではそんなつもりなかってんけれど、やっぱりどっかで、すねとって、そのお陰で会話もぎくしゃくさせてしまったのではないか、とあれからずっと反省しています。
なんでもっと気の利いた言葉を、優しい言葉をかけてやれんかったんやろうって正直落ち込んでしまいました。

オレはあいと一緒で笑ってしまうくらい淋しがりやから、手紙がなかったり面会がなかったりすると、淋しさの余り、物凄く思い詰める習性があります。
早くよくなって微笑むオレに微笑み返して下さい。
逢いに来てくれるのを楽しみに待っています。

オレの近状を書き添えておきます
先日から2名の夜間独居に入れてもらい、小説を書いています。
もちろんぶつちぎりの恋愛小説です。
心ない懲役にその話しをすれば、
「やくざやねんから恋愛もんとか気持ち悪いもん書かんと、実録モンを書きや!つかぐちはんっ」
などと言われますが、そんな野蛮なもん書く気もしません。
いつだって、オレが書くのは、ーあなたを愛しています...そして...一みたいなヤツだけです。
十分、気持ち悪いってか(笑)

今書いているこの小説を、ゆくゆくは世に出してやろうと思っています。
まだページ数にすれば、半分も書けていませんが、今もってるすべてを出しつくして、執筆するつもりです。
オレの言葉はいつだって不安と苦悩、そして未来への夢と希望の中から生み出されて行きます。
もしも小説家として世に出るコトができたら、今まで犯してきた数多くの過ちも失敗も、恥も、無様も報われる、そんな気がするんです...なんてな(笑)

努力の向こうに見えるものを、もぎとって帰ります。
愛すべき三人のチビ達と信じて待っていて下さい。
不一

追伸
オレが社会に復帰するまで、一年以上の歳月が残ってる。
その道中には、まだ様々な出来事があると思う。
それでもオレの心の支えであって欲しい。
泣きたい時に胸をかしてやるコトも、淋しい夜に肩を抱いてやるコトも今は出来へんけど、オレの帰る場所であって欲しい。
そのかわり、出所後には生涯オレがおまえらの寄り添う場所になってみせるから...。
ゆまの身体と心が穏やかであってくれるコトを
願い、そしてチビ達三人がたくましく育っていってくれるコトを祈り、写経しました。
同封するのでお守りにして下さい。