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〜青春グラフィティー〜

小説「忘れな草」第29話 沖田臥竜

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〜青春グラフィティー〜

もし男どもの中で、樹愛が頭をしていると言われても、オレは驚きはしないと思う。だってオレなんかより現実味がありそうなんだもん。

「単車、うまいんかっ?」
やっぱりオレはどこまでいっても男の子だった。
樹愛の運転が上手いのか下手なのか気になってしかたないのだ。
「さぁ、どうかな。じっちゃんは?」
「オレっ?オレはうまいさぁ。パッツン四台に追われて逃げきったコトあるし、昼間白バイに追われてまいたコトあんの、悟志とオレだけやしな。
それにナビオ前で、バチバチの検問突破したコトだってあるしって、何わろてんねんっ。
ウソちゃうぞっ。悟志にきいてみろや!。ホンマにホンマにウソとちがうぞっ!」
失礼にも話しの途中でクスクスと樹愛が笑い始めたので、オレの話しをうたぐってるのかと思い、ムキになった。
そりゃあ、確かに多少なりの脚色はイナメないが、決して捏造ではない。
「ホンマやぞぉ」
「ううん、ちがうねん。男の子っていいなって思ったねん」
「そうかぁ」
樹愛の言葉の意味まではわからなかったけれど、どうせなら男の子などという区切りなどではなく、オレのコトをいいなっと言って欲しかった。

「じゃあ今度はアタシから質問な。塚口 樹里くんは彼女できましたかぁ?あっもしかして、いおりと付き合ってたりして仲よかったもんね、じっちゃんといおり」
「いおり」とは樹愛と同じグループの女子だった。
バカヤロウめっ!なんでオレがいおりなぞと付き合わなければならんのだっと言ってやりたかったけれど、口には出さず、「知らん」とだけこたえておいた。

確かに樹愛の指摘通り、男と女の関係は別として、いおりとはよく話しをしたしふざけあったりもした。どさくさに紛れて、チュウしたコトだってある。
だけどそれには、ちゃんとした理由があった(チュウに理由はないけれど...) 。
一つは、いおり本人にきかれてしまうと、大変幻滅されてしまうだろうが、いおりが樹愛と仲良くしていたからだった。

だからいおりと仲良くしておき、頃合いをみて本丸の樹愛に攻め込もうと思っていたのである。悪い奴である。
あわよくば、いおりの好感度をあげておいて
ーつかぐちっていいやつだよねっー
なんてコトを樹愛に言うようにしむけてやろうと、戦国武将、真田幸村バリの策まで弄していたのであるから、本物のワルである。
我ながら、十三歳にしてなんてしたたかなガキであったろうか。おかげさんでろくな大人にならなかったが、でも実際、いおりとは気があった。
男女の恋愛関係という類いの感情とは違うけれど、いおりのコトは好きだった。

中1の時は、男子だけではなく、女子でさえ樹愛に近づくコトができなかったけれど、中2になって樹愛は変わった。
そのかわった樹愛に一番最初に近づいていったのが、いおりだった。
オレは樹愛と仲良くしている、いおりが好きだった。それはオレにとって必然だった。
好きな人間。もっといえば、何より大切に想う人が、死ぬ程憎んでいる人間と仲良く話しをしたり、笑いあったりするコトが出来るか、というコトだ。
それはそれ、これはこれ、とオレは想いをうまく分け隔てするコトができない。

単純に樹愛を嫌ってる奴とはうまくやれなかったし、樹愛にとって大切なものは、人も物も歌もすべてオレにとっても大切だった。
そんな気持ちをうまく言葉にして、表現するにはもう少し大人にならなければならなかった。
17歳のオレにはまだ早かった。

「樹愛はどやねん。男おんのとちゃうんかっ?」
ーだから、もうオレのコトもオレらのコトも、忘れ
てもうたんやろうが!ー
後の言葉は口に出さず飲み込んだ。
何気ない態度を装い口にしたつもりだったけれど、内心、樹愛がオレの質問にこたえるまで息苦しくて仕方なかった。
「知らんっ」
樹愛はそうこたえるとプイッと横を向いてしまった。
「なんやねんっ、それぇ」
「じっちゃんのまね。知らんっ」
またプイッと横を向く。
オレはその仕草がおかしくて、いつの間にか笑い出していた。樹愛もつられて笑っていた。

遠くでまた爆音があがる。

「誰やろうっ」
会場のほうに視線を向けながら、樹愛がつぶやいた。
「悟志とマサキちゃうかな」
毎日つるんで単車をコロがしていると、リズムのとりかた、コールのきり方のクセで、だいたい誰だか言い当てるコトができた。
「悟志とマサキか。懐かしいー。なっ、じっちゃんアタシらも観に行こや!」
そう言って樹愛は立ち上がると、単車がとめてある方に向かって、駆け出し始めた。

「あっ、ちょっ、樹愛、ちょっとまてって」
オレは樹愛をよく呼び止めている。
「えっ」
振り返った樹愛は思わずうろたえてしまいそうなくらい、綺麗だった。
どこまでも澄んでいて、透き通った瞳にみつめられてしまうと今から伝えようとしている想いが、
くじけて消えていきそうだった。
「ずっと、ずっとな、、」
「えっ、なんてーっ⁈」
意を決して、オレはひと呼吸おくと、声を張り上げるように叫んだ。

「オレなっ、ずっとお前のコト好きやねんぞっ!!」

言葉にしてしまうとすげえどんくさいけれど、オレの勇気を褒めてやりたい。

樹愛は一瞬表情をとめた後、
「そんなん、ずっと前から知ってるわぁっー!」
叫ぶようにそうこたえ、零れそうな笑顔をオレにつくってくれた。
「じっちゃーんっ!はよきいやぁーっ!」
大袈裟に手招きする樹愛に向かって、オレはかけた。
このままどこまでも、樹愛に向かってかけて行きたかった。
映画やドラマみたいな決めたセリフはなかったけれど、これが二人の愛の言葉になった。
そして愛の始まりになった。
樹愛はオレの彼女になって、オレは樹愛の彼氏になった。デヘェ