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(2)平成19年11月22日

小説「忘れな草」第6話 沖田臥竜

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(2)平成19年11月22日


懲役の冬は早いし寒い。寒がりなオレは毎年11月も半場を過ぎると、もう冬の到来にビクついてしまう。
それにしても今日のオッサン(担当)には、腹がたった。
午後の休憩中の話しだ。担当台からハンドマイクで「塚口っ!」と呼びやがるので、待ちに待つた面会かと思い、普段何があっても走るコトのないだらけきった懲役のオレが、かけてオッサンの元へ急ぐと一言。
「足おろせっ」
殴ってやろうかと思った。
お前の方こそ担当台から引きずりおろしてやろうかっと思った。
イスに座っている時に組んでいた足をおろせと言う為だけに、オレを走らせたのだ。怒鳴ってやろうかと思った。
このコトだけは忘れないように日記につけてやろうと作業中も怒りの中で考えていた。

ーおいっ担当よ。あんまりオレを怒らせるなよっ!もしシャバで家族揃って買い物してる所でも遭遇してみろ。嫁はん子供揃って行進させてやるからなっ!!あんまりオレを怒らせるなよっ!!!ー

なんだかこんなコトを薄暗い独房でブツブツ言いながら書いていると、すっげぇみじめな気になるのは気のせいだろうか...
オレってヤツは人間が根暗なのか!?

そもそもあのクソ女のせいではないか!
奴がしゃきっと面会にきておれば、こんな思いをするコトもなかったのだ。
なにが、次は10月の終わりにくるだぁ!10月どころか11月も終わってしまうだろうがぁ!お前も行進させたろかいっ!
面会も来んし、手紙も来ん。あげく親父(担当)のアホには怒られるし、すこぶる最悪な気分だぜぇ...。

11月20日 そういえば、今日は樹愛の誕生日か。
こんなオレを見たら、あいつはなんて言うだろうか。
あれから10何年も経つというのに、忘れることなく覚えている樹愛の誕生日。樹愛も今日で32か。
子供の頃、自分が30才になるなんて、想像どころか信じるコトも出来なかったけれど、樹愛の32というのも、とてもじゃないが、想像できんよな。
オレの記憶の中の樹愛は、いつまでもあの頃(ハタチ)のままで、
「じっちゃん、かいたらいかんてっ!」
イライラして体をかきむしるオレをたしなめてくれる。

いつもイライラしては、体をかいていたせいで
「かいたらいかんて」って言葉を彼女の口癖にしてしまった。


風の便りで樹愛が結婚したと聞いたのは、いつだったろうか。
その時オレはやっぱり塀の中にいて、そのウワサ話も塀の中で聞かされた。もう何年も前の話だ。
今日という日を樹愛はその家族達に祝ってもらっているのだうか。祝ってもらっていたらいいなっ、幸せだったらいいなっと思えるまで10年近くかかったけれど、今なら素直に言えそうな気がする。
オレも大人になったというコトか...。
女が面会に来んだけで行進させたろかいって言ってるようじゃ、まだまだだわな。

いつの日か今日のコトだって時間が美しく映し出してくれるのだろうか...。明日もどうせ面会はないだろうな...。
秋風が黄昏れと共にやって来て、狭い独房を吹き抜けていった。


一樹愛、元気でやってるか。
オレは相も変わらず塀の中で暮らしとるわ。よくも悪くもこれがオレの人生やからな。
「自分の人生やねんから、もっと大切にしないかんて、じっちゃん 」
泣きながら、樹愛が言ったあの言葉。もう忘れてるかもしれんけど、オレは時折思い出しては、そうやわなって、一人つぶやいたりしてんねん。

樹愛には憎まれてるのも、恨まれてるのもわかってる。わかってるけど、いつか時間経ってどっかででおうたら、こんなアホなオレのコト許したってほしい...。

誕生日おめでとう、素敵な人生になるコトを陰ながら祈ってますー