樹愛はたまたま、その時だれかに聞いて、オレの名前が樹愛と同じ樹木の樹という漢字に里と書いて「じゅり」と知ったかもしれないがオレは違った。
小学二年の時からそんな事はしっていた。
「久しぶりやね、じっちゃん」
そんな言葉でかたり尽くせないほどの時間が経っていた。
15年。そう15年ぶりだった。
樹愛は年をとらないのだろうか。
そう思ったのは、レジで会計を済ませコンビニの横の自動販売機のまえで、これまでのオレの消息をかい摘んで話している時だった。
15年前、別れたあの夜のままの彼女が時を越えて、目の前にいるように思えた。
話す仕草も、ほほ笑む笑顔もあの頃とほとんどかわっていない。
こちらはずいぶんと汚れ、おっさんになってしまったというのに。トホホ...。
「アトピー、大丈夫なん?」
「えっ、アトピー?」
そうこたえかえしたオレの手を樹愛は掴んでみせると、オレの長袖シャツの袖をまくりあげた。
「あ〜っ! 入れ墨入ってるやんっ」
アトピーの調子を見ようとした樹愛だったが、手首までびっしりつかれたスミを見て、そっちに気がとられてしまったようだ。
「しゃぁないやん。だってヤクザですもの。」
「ヤクザですものって、ほんまじっちゃん相変わらずやな。」
「そうかな」
美しかった。表情の一つ一つ全てが美しかった。
芸能界の最前線で生きる二十代の女優達でさえ、樹愛の前では霞んでしまいそうだ。
こんな女性がいつもオレの隣にいてくれたなんて。オレみたいな男を愛していたなんて。今では冗談にもならないくらい、遠い昔の話だ。