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平成22年2月

小説「忘れな草」第2話 沖田臥竜

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平成22年2月

こんなものか。
前刑10年の刑を務め終えた時もそうだった。
あれだけ待ち焦がれ、恋い焦がれた娑婆だというのに、いざ社会に戻ると時の流れの早さに戸惑うばかりで息苦しさしか感じなかった。

中には中の世界があって文化があって価値観があるように、社会には社会の営み、人間模様が存在する。

どちらの苦悩、悩み苦しみが激しいか一概にはいえないが、外に出ると社会のほうが遥かに複雑だというコトに気付かされる。

月に二度もしくは三度、時間にしてわずか10分程度の面会時間を何よりの楽しみにし、10日手紙が届かないだけで情緒不安定になり、狭い独房をのたうち回ったあの頃。

毎日来る日も来る日も、女に見捨てられはしないか、という恐怖に縛られ、喜怒哀楽が激しく揺れる。刑の終了まで変わるコトなく繰り返される日々。

だけど、もしかしたら極限まで制限されて自由を剥奪された塀の中の方が、実は幸せなのかもしれない。

それは思い出の詰まった曲がラジオから流れただけで、夕食がちょっとうまかっただけで、ささやかな至福を得るコトが出来るからだ。

社会ではそんなコトで満たされるコトもなければ、気付かされるコトすらない。
限りない自由な生活よりも、限られた不自由な時の中で、ささやかな楽しみに喜びを見出すコトのほうが、幸せというのは矛盾しているかもしれないけれど、それはそれで悪くはないのではなかろうか...。

出所して一ヶ月が過ぎた頃だった。オレが樹愛(きあい)と再会したのは...。