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「忘れな草」第13話

小説「忘れな草」第13話 沖田臥竜

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「どうしたんっ?」
玄関を開けるとあいのすけが、三角座りをして玄関に座りこんでいた。
その表情は怒っている時のあいのすけの顔だ。

「ほらっ、あい、ゆうたでしょう。ちゃんと帰ってくるって」
リビングからゆまが笑いながら出てきた。

「塚口があんまり遅いから、また刑務所に連れて行かれたって言い出して、さっきからずっとそこに座りこんでんのよ」

彼、あいのすけの利かん気の強さを強調させる大きな瞳は、オレを見ていた。オレは、そんな彼が愛おしくて仕方なかった。
「ごめんっごめんっ、あい。タマゴのヤツがなかなか見つからんで、ずっと探しとってん。」
「だから、忘れんように書いていったらよかってんっ!」
別に忘れていた訳ではない。見つからなかったと言っているのだ。
だけど、そのコトについて、彼と議論するつもりはない。
「ママッ!あがったぁッ!パンツどこおっ!パンツっ!」
奥から次男、りゅうのすけの声が流れてきた。
「そこにだしてあるでしょ!」
慌ただしくゆまが奥へとかけて行く。

まだ4年のムショボケは、抜け切っていない。たまに自分でもどうしようもない心境に陥り、見る
ものすべてをブチ壊してやりたい衝動にかられてしまう時だってある。
だけど、今の生活だけは無くしたくない、と誠実に思う。
この暮らしを守る為なら、オレは何とだって戦おうとするだろう。
もしも時が戻ったとしても、またオレはゆまと三人のチビを捜すと思う。
別れを思ったコトは、一度や二度ではない。
もちろんそれは、ゆまも同じだろうが、絶対別れてやろうと思い、ゆまを憎んだコトもある。

4年の受刑生活中には、色々なコトがあった。
毎日欠かさず届いていたゆまからの手紙が、三日に一回になり、週に一回になり、一ヶ月に一度
になって行った時、憎くて、憎くて仕方なかた。
殺意すら覚えたコトも冗談ではない。
面会もおろそかになり、ナメやがって、と歯ぎしり噛んだ夜。出所して立場が五分になったその時には、ことごとく捨てさってやろうと、自分自身に言いきかし、破滅しそうな心をやり過ごしたコトだってある。

そうやって自分自身に言いきかせてる内に、ゆまから先に引導を渡され、捨てる前に捨てられてしまったコトだってある。
散々途方に暮れた揚句、怒りは爆発。
おまえなんてどうにでもなりくされ、的な罵詈雑言の手紙を書き殴り、送りつければ、宛名不在で舞い戻り、余計にダメージをうけてしまったコトさえある。

だけど今、一緒に暮らしていた。喜びも悲しみも、笑顔も涙も分かち合いながら、同じ空間で生きていた。

もし神様がいたとして、
「今のおぬしにとって、一番大事なものはなんじゃ?」
と、問われれば、オレはこうこたえるであろう。
ゆまであり、チビ達であり、ゆまやチビ達との暮らしだと。
答えは出ていた。過去に樹愛のコトを誰よりも愛した気持ちに、何一つのウソはない。
でもオレが生きてるのは、過去ではない。未来を見て今を生きている。
もし樹愛がやり直そうと口にしたとしても、もう過去に戻るコトは、オレにはできない。
もうやり直すコトはできなかった 、、、って誰もやり直そうなんて言ってねえよな。失礼