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ーバッテツ見参ー

「尼崎の一番星たち」出版記念!文政プレイバック㉒

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ーバッテツ見参ー


 文政と同じように現在、塀の中にいることで、大阪府民に安心と安らぎを与えているステゴロキング・バッテツの懲役ライフは、筋トレ。筋トレしかしないのである。
 洋裁工場に配役されようが、金属工場に降ろされようが、筋トレしかしない。
 懲役の日々を、明けても暮れても筋肉のトレーニングだけに捧げているのだ。
 
社会においてもそのライフスタイルはたいして変わらないのだが、それでは社会生活を営めないので、ちゃんと債権取り立て──と見せかけたカツアゲという仕事には就いている。
 
主にバッテツは、このカツアゲ一本をなりわいとしている。
 だが時折、腕相撲という新手のバクチを開帳してしまうこともあるにはあるのだ。
 結局、バッテツがやるとカツアゲになってしまうのだが。


「あのねあのね、カツアゲは正業。腕相撲は仕事とちがうねん。う~んとね、アルバイト」
 まだニートの方が世間様に迷惑をかけぬ分、ましではないかと思われるこのアルバイト。
要は、力ずくで腕相撲をやらせ、力ずくで大枚を張らせ、力ずくで相手をねじ伏せるのだ。
やはりカツアゲではないか。


「おいっ、兄弟。腕相撲で懲役なんてなってみ。ワシに笑われてまうど」
みんなに、ではなく、ワシに、と特定するところが文政らしいのだが、文政ですらそんなことを口にするほど、そのアルバイトは危うい。
 しかしバッテツに言わせると、こうなってしまう。
「う~んとね、兄弟。債権(回収)はギリ、グレーやけど、腕相撲はホワイト。めくれても賭博開帳図利」
 賭博開帳図利。まったくホワイトではないではないか。ていうか、下手をすると恐喝だけではなく傷害や脅迫といった罪名まで付けられてしまうだろう。間違っても、賭博開帳図利での逮捕にはしてくれまい。
 
バッテツがいう"アルバイト"のシフトは、まさに神出鬼没なのである。
 ガタイの良い、悪そうなヤカラを見かけると、握力計を軽く振り切ってしまうと言われている指と、丸太のように逞しい首の骨を鳴らしながら、「あのねあのね、自分。あんまり調子乗って歩いとったら腕相撲させるで」
となるのである。だがまだこれは、出勤ではない。ここでバッテツに目を付けられた不良が、「しゅいましぇんっ」と道の端でシュンとしてしまえば、バッテツはバイトに出ない。
たいがいはバッテツの体躯に怖れをなすため、無断欠勤が続いてしまうが、仮に一言でも「何こら!」と言い返してしまうと、力強くで近くのファミレスへと連行され、
「あのねあのね、ハンディーあげる。ハンディー。両手でもカモーン」
となり、腕相撲を強制させられるのだ。
そこで始めて、バイト出勤となる。
 
時給は相手の収入次第で大きく変動するのだが、たいがいは「自分、預貯金なんぼもってんの?」と質問される。
挙句、その際のファミレス代までおごらされる寸志まで出さなくてはいけなくなってしまうのだ。


懲役に行くと、たいがいの者は色白く痩せて社会へと帰還を果たす。しかし文政だけは、ウェートをMAXにまであげて野に放たれてくる。
実はバッテツもそうなのである。隆々とした逞しい体躯に磨きをかけて帰ってきてしまうのだ。
 
もしかすると、塀の中でもイキがっている懲役に無理矢理、食券(晩飯)を賭けさせ、アルバイトしているかもしれない。
 
ステゴロ同様、腕相撲でもバッテツに黒星をつけた者はいまだ存在しない。


●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)