手紙
平成20年11月
前略
最後の手紙になります
ごめんなさい。もう塚口のコト、待つコトができなくなってしまいました。
嫌いになったとか、そんなんじゃないです。
塚口は今までゆまが出逢った人達の中で、一番よくしてくれたし、誰よりも子供達のコトを考えてくれた。本当に感謝しています。
でも正直言うと、ゆま自身の気持ちが、愛情なのか、情なのか、わからなくなってしまいました。
こんな気持ちで塚口を待つのは、塚口に失礼だしゆまにはもう塚口を待つ資格なんてないんじゃないかって思い始めてた。
男ができたとか、好きな人ができたとか、そんなんじゃないコトだけは信じてください。
あと一年ちょっと塚口を待っていれば、誰よりも幸せにしてもらえるコトはわかってる。
ゆまのコトもちび達のコトも大切にしてくれるのはわかってる。
だけど、こんな気持ちではもう待てない。
塚口にはゆまなんかよりもっと相応しい人がいると思う。
わかって下さい。
今まで本当にありがとう。
身体には気をつけて、頑張って下さい。
さようなら。
PS
勝手なコトばっかりいってごめんなさい。
担当から手紙を受けとった時に、なんだか嫌な予感があったけれど、やはりそれはゆまから届いた別れの手紙だった。
オレは泣くのかなって思ったけれど、二度読み終わった後、涙をこぼすコトなく、こうして日記をつけている。
そりゃ、はっきり言って出所すれば、ゆまと別れてやろうと思っていた。
愛してる、なんて言葉より、憎んでいる、という言葉のほうが正しかったと思う。
なのになんでやねん!
胸がはちきれそうなんわ!
「じゅり!」て、呼ぶちび達の顔が一人一人浮かんできて、オレの胸をぎゅっとわしづかみにして苦しめる。
いつかこの日がやってくるだろうというコトは覚悟していた。
それに気付かないフリして生きてきたのかもしれない。
それにしても辛いよな。別れというのは本当に辛いよな。
打たれ弱いこのオレに、乗り越えるコトなんて本当にできるんだろうか。それほど辛い。
「ワシにはなんもでけへんけど、せめてこれでもくって元気つけてえや、つかぐっちゃん」
と、同室のまこっちゃんが、夕食に出た副食のくりきんとんをくれた。
くりきんとんどころではなかったけれど、その優しさにしんみりしてしまい、くりきんとんの甘さすら覚えていない。
忘れたはずだった、こんな気持ち。心の中にぽっかりと穴があいてしまった。
やっぱり今日、オレは泣くだろうな。情けないけど、布団の中にもぐりこんで、消灯後、声もあげずに泣いてしまうんだろうな。
これも修行のうちか って、バカヤウ。こんな修行したあるかいっ!!
幸せなれよ!なんてクサいコト、オレは絶対ゆうたらへんからな!絶対に絶対にゆうたらへんからな
! 、絶対に 絶対に...。
●沖田臥竜(おきた・がりょう) 元山口組二次団体最高幹部。所属していた組織の組長の引退に合わせて、ヤクザ社会から足を洗う。以来、物書きとして活動を始め、著書に『生野が生んだスーパースター 文政』『2年目の再分裂 「任俠団体山口組」の野望』(共にサイゾー)。最新刊は『尼崎の一番星たち』(同)