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東京ピカレスク~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ 新章第37回 転身と転落

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新章「サイバーアウトロー」連載第37回 転身と転落


文/三井裕二・監修/坂本敏也・構成/影野臣直

これは実在するひとりの男の転落と更生の物語である。

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あらすじ
詐欺の収益を目の当たりにした三井は自ら危険な賭けに臨むのだった


「あっ、三井先輩!」
 池袋のキャバクラで飲んで、駅前で鹿児島と別れたオレに若い男が声をかけた。

「あれ......えーっと......」
 酔いも手伝ってか、一瞬誰だかわからない。

「やだなぁ、忘れたんですか。金沢ですよ、金沢(かなざわ)英俊(ひでとし)」
 男は残念そうに言った。

 金沢は、オレの地元の後輩だった。

「おぉ、英俊か! 久しぶりだな!」
 オレの脳裏に、昔の金沢の顔がフラッシュバックされた。

 オレは後輩を懐かしみ、握手しようと手を差し出した。

「どうも、ご無沙汰してます」
 金沢は、右手に持った大きなコンビニの袋を左手に移し、オレの右手を握った。金沢は、買物の途中のようだった。

「てか、オマエ。今、なにやってんの」
 オレは、金沢をジロジロとナメまわすように見た。

 金沢は軽装だったが高級ブランドのジャージに、当時、大人気だった金無垢のロレックスのテンポイントが腕に光っていた。カネまわりは良さげだった。

「や、やだな。おかしな仕事なんかしていませんよ。今は、この近くの出会い系サイトで働いています。これはサクラたちの差し入れですよ」
 訝しげなオレの視線に気づいたのか、金沢はあわてて首を横に振っていった。

「ほ~う、出会い系サイトねぇ~」
 つい先日、出会い系サイトがらみのトラブルで、品川と安保を追いこんだばかりである。

 今日は夕方から鹿児島と飲んで、品川らの待機場所である演芸座通りをとおってきたばかりだった。もちろん、そこにヤツらはいなかった。

「ホントに出会い系サイトなのか」
 出会い系サイトの従業員にしては、身に着けているものが高価なものばかりだった。

「まぁ、いいや。とにかくオレの名刺を渡しておくよ」
 オレはセカンドバッグから名刺を取りだし、金沢に渡した。金沢は押しいだくように、オレの名刺を受けとった。

「実はオレ、データ屋をやってるんだ。出会い系サイトなら、データは必要不可欠だろ。いらないデータを買ってやれるし、売ってもやれる。もし、気がむいたら、そこに連絡をくれ」
 金沢はオレの仕事に興味をもったのか、コンビニの袋を手に持ったまま名刺を眺めている。

「三井さん! いや、先輩! 今度、会ってくれませんか!」
 金沢は、真剣な眼差しでオレを見た。

「おぉ、別にいいよ。今日は酔っているから、明日にでも電話をくれ」
「はい、必ず連絡します!」
 金沢は、目を輝かせていった。

 この金沢との出会いが、オレと鹿児島の人生を変える。将来のことは神のみが知る、運命の出会いだった。

 翌日、すぐに金沢から会って話がしたいとの連絡が入る。場所は池袋以外ということで、オレは歌舞伎町の『嵐林(らんりん)会館』の1階の喫茶バリマドンナで待ち合わせをした。

「これ、先輩に差しあげます。古いデータですからお役に立つかどうかはわかりませんが、手土産がわりということで......」
 金沢は、昔から気の利く男だった。

「おう、ありがとう。よろこんでいただくよ」
 クズみたいなデータでも、オレたちには貴重な商品だ。オレは、金沢は使えると認識していた。

 事実、金沢は大手出会い系サイトの生きたデータを横流ししてくれた。膨大なデータを前に、売るだけでは惜しいという気持ちが芽生えはじめていた。

 過去に追いこんだ、品川や安保の盛況ぶりが耳に入ってきている。飛ばしの携帯で、スパムではなく5軒づつ手作業で配信して、500万円の利益が上がっている。

 しかもデータは、大手の出会い系サイトから無尽蔵に入手できる。オレの心の中に、新たな野心が芽生えていた。