墓の表蓋を破壊し遺体を引き出し、自分が代わりに居座る
その起源はスモーキー・マウンテン閉鎖以前の1980年代末にさかのぼり、世紀を跨ぐ最盛期には六千人もの貧者が生活していたという。住人たちはスカベンジャーのみならず、墓守、墓掘り人夫、墓の清掃など"死"に携わるあらゆる仕事で生計を立てる手段としている。
カトリックの庶民以下の階級が主に利用している公営墓地とは、納棺後五年経つとすべての遺体が引き出されて、遺族へ返却されるか、焼却処分されることになっているが、世界中のカトリック教国のそうした墓地では、棺が納まる直方体の同じ大きさのセルが縦横に連なる、カプセルホテル方式、もしくはマンション方式と呼べばよいか、独特の形状をした墓石がポピュラーである。
それは死者が表裏で二人横たわるのに必要な四メートル弱の幅が確保されており、そんな墓石の上は生身の人間が住むバラックを建てるのに十分なスペースであった。墓石マンションの上階を生者が占拠し生活することになったわけであるが、中には空いた墓のスペースを占拠する者があったり、しまいには契約期間中にもかかわらず勝手に墓の表蓋を破壊して遺体を引き出し、自分が代わりに居座ったりするケースもあった。
その結果、引き取り手を待って置き去りにされたものも含め、野ざらしにされた大量の遺体、遺骨を拾集したり処分したり磨いたりして、死者を直接取り扱う賤業によって施しを得る者が出たり、とにかく生と死のカオスと言おうか、世界でも希有な状況が現出したのだ。
