>  > 東京ピカレスク~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ 第29回 ピカロの甘い罠 後編
東京ピカレスク

東京ピカレスク~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ 第29回 ピカロの甘い罠 後編

この記事のキーワード:
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

完璧な回収方法


 翌日早朝から、オレは悪徳弁護士・宮崎武の事務所にいた。

「それは、困ったことになったなぁ。で、その人の不動産は......」

「家と事務所兼自宅がありますが、銀行ローンが数百万円残っています」

「う~ん......」

 宮崎弁護士は頭を抱えこんだ。

「だったら、大前田名義で銀行ローンを全額、アンタんとこで払ってしまいなさい。数百万程度なら、残債を払って抵当権を外してから処分しても、十分もとはとれるだろ」
 さすが、悪徳弁護士である。

 自己破産するためには、自己の資産価値のある財産は手放さなくてはならないと、決まっている。ローンをこちらで払い、大前田の所有にしたら、それをウチの抵当として処分する。裏を知り尽くした、悪徳弁護士ならではの債権回収法だった。

「......というわけだ。この家をウチが借金の抵当として受けとれば、無事、ご主人の自己破産は決定する。そして、これがアンタらに残った残金だ」
 オレは明日香に、現金20万円を支払った。

 免責が決まったからといって、一文無しになるわけではない。裁判所で定める基準を超えない財産(=20万円以下の預貯金等)は、自己破産者でも持つことができるのである。

「引っ越しするにも、カネはいるだろう。とっておけ」

 自身の無知のため自己破産がうまくいかず、悔し涙にむせぶ明日香にオレは現金を渡した。逆に、描いた絵図どおりに事をはこんだオレは、喜色満面だった。処分した家屋敷は、カネに換えて債権者に配当される。大前田の債権は、意外にもウチだけであった。

 融資金260万円+ジャンプ3回分の金利180万円。そして、抵当権を外すために支払ったローンの残債360万円+360万円のトサンの金利108万円。908万円が鈴彰グループに支払われ、他にも多くの書類作成費用や、雑費等諸費用に交通費などを含め、その費用合計は1千万円を軽く超えていた。

 幸いに小切手帳、委任状や譲渡書等の必要書類や実印と会社印は、借り入れ時に白紙のまま受けとっている。手続きは、思った以上に簡単だった。家屋は2200万円で売れ、ウチの利益は金利によるものは別として、1千万円の余剰利益を計上した。

 オレが大前田に貸し付けたときはローンズまきかわの副社長であったが、途中でオレが東京三井ファイナンスの社長として独立したため、牧川と話し合ってウチの顧客として譲渡されることになったのである。長年、ローンズまきかわで働いた、論功行賞的な措置であった。おかげで、東京三井ファイナンスは、オープン開始から上々の滑りだしを決めたのである。

 だが、それと引き換えに、大前田は自らの命を絶った。

 オレの描いた絵図に、大前田は困惑。借金をなくそうと自己破産という道を選んだのであるが、逆に家屋敷を奪われて家族は離散。大前田は躁鬱病を発症、ストレスから胃癌となって区の福祉課による世話で癌センターに入院した。

 そして、闘病中にムスメの貴仁香(くにか)が風俗で働きはじめたことを知り、自責の念にかられ自殺を図ったのである。親思いの貴仁香は、入院中の父に代わって稼ごうと考え、オレに頼みこんできた。

 オレは、裏系就職ガイド会社『Journey(ジャーニー) Junior(ジュニア) Club(クラブ)』CPOの上村一彦(愛称:ジュニア)を貴仁香に紹介した。ジュニアは、18歳になったばかりの貴仁香をAVデビューさせた。

 大前田の葬儀は、区の福祉課によって荼毘にふされた。大前田の人柄からか、接骨院の患者が多数、弔問に駆けつけた。

「おい、大前田の香典を全額回収してこい」
 大前田とも親交があった鈴彰が言った。

 福祉課によって葬儀が成された場合、弔問客がおいていく香典は区が徴収する。オレは、大前田の遺影の前に供えられた香典を差し押さえた。

「この銭の亡者め! 借金は支払ったろ! なんで死人に鞭打つようなことするんだ! この人でなし!」

 涙でボロボロになった顔で、明日香は叫んだ。オレは無言で香典をバッグに詰めこんだ。今も、このときの明日香の鬼の形相は忘れない。

 実際、鈴彰は香典が福祉課に回収されることを知っていた。遺された明日香のために、香典を回収したのである。福祉課も悪徳金融業者が香典を奪っていったとなると、あきらめざるを得ない。だが、弔問客にはそうは写らない。無慈悲な闇金業者に、怒りを覚えたことだろう。

 後日、明日香に香典が返されたのを知る者は少ない。明日香は非礼を詫び、オレに感謝してくれた。

 このとき、オレは改めて鈴彰の底知れぬ度量を知った。そして、今までは上司としてリスペクトしていた鈴彰だったが、これからはグループを離れて、彼と対等の立場で闘おうと決意した。鈴彰グループで働き、8年目で名実ともに独立を果たしたのである。

 オレは月末、鈴彰グループ本部事務所に辞表を提出した。


第1部完


tokyopica29-2.jpg


-第2章は「サイバーアウトロー編」乞う、ご期待!-    

※写真はイメージです