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東京ピカレスク~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ 第27回 ピカロの巣立ち

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連載第27回 ピカロの巣立ち


文/三井裕二・監修/坂本敏也・構成/影野臣直

これは実在するひとりの男の転落と更生の物語である。

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あらすじ
闇金チェーンで着々と実績を重ねていた三井はある日、オーナーの鈴彰に呼び出された。


「おい、三井。オメェ、独立してみねぇか」

 歌舞伎町のラブホテル暁(あかつき)跡の本部事務所で、鈴彰はオレに向かっていった。彼の背後には、巨漢の五十嵐が控えている。

「は、はぁ」
 鈴彰から呼びだされたとき、なにか重大な話があるのではと感じていた。だが、独立を推されるとは、思ってもみなかったのである。
 あまり突然のことに、オレは狼狽(ろうばい)を隠せなかった。

「なんだ、一本立ちはイヤか」
 鈴彰はオレをにらんだ。

「いえ......」
 オレは、小さく首を横に振った。

 実際、オレは迷っていた。

 ここでいう独立とは、鈴彰グループを辞めて他組織として独立するのではない。ローンズまきかわ代表の牧川のように、鈴彰グループ内で自分が社長となって金融会社を立ち上げるのである。もちろん、その開業資金は鈴彰が出資する。

 つまり、鈴彰グループ傘下の一子会社として、独立するのである。あえて言うなら、限りなく店長に近い社長であった。

 オレも鈴彰グループに入社してから、すでに7年の歳月が流れている。もちろん実績も、十分すぎるほど上げていた。オレの所属するローンズまきかわでは、『副社長』の肩書をもらうほどに出世していた。

 当然、営業に関することはすべてオレ自身が権限を持っていたし、貸付金や口座への出入金のチェックや必要経費等の採決権も握っていた。ローンズまきかわでのオレの地位は、実質上の営業責任者だった。

 また、成績優秀なローンズまきかわには、社長の牧川に経理の菜摘らの他に、オレの下に3人の部下がいた。同じ鈴彰グループのローンズ金光から移籍し、現在はウチで部長職を務める坂井や、東大卒の数間と新入りのアルバイトを含めた3人だった。

 すでにオレの入社当時の3倍の規模を誇り、9人態勢で運営されていたのである。当時のローンズまきかわは、おそらく鈴彰グループ内では最大最強で、最高の計上利益を上げていた。

 ただ、全資金を個人で出して独立するのと、あくまでも鈴彰の傀儡(かいらい)政権下の庇護のもとに、名前だけで独立するのとは根本的に異なっている。オーナー社長と、雇われ社長との違いである。

 オレは、そこのところが引っかかっていた。

 だが、新規のフロンティア企業ではなく、業界ではその名を知らぬ者はいないといわれるほどの鈴彰グループ、という看板がある。  
 これは、何物にも代えがたい信用であった。

 ピカロの間では、鈴彰グループは超優良安定企業なのだ。数日間迷ったが、オレは鈴彰の申し出を承諾した。

 東京は千代田区神田に、『東京三井ファィナンス』を開業した。三井財閥系の子会社のようだが、オレの名前が三井である以上、別にパクったわけではなかったのでクレームはない。

 オレは鈴彰内とはいえ、一国一城の主となったので満更ではなかった。

「乾杯~!」
 独立が決まり、オレはローンズまきかわ社員一同に送別会を開いてもらった。

 酒を飲んでもクールな牧川、泣き上戸の五十嵐、坂井。笑い上戸の菜摘に、酒乱のインテリ数間。個性豊かな仲間と飲むのは、最高に楽しかった。だが、さすがに夜が更けてくると、1人去り2人去りと帰ってゆき、最後まで残ったのは菜摘だけだった。

「三井くん! 菜摘はうれピー! もう一度、乾杯~!」
 菜摘は、もう呂律がまわっていない。それでも、満面の笑みでグラスの酒を飲み干した。

 もう何度目の乾杯だっただろうか。その小さな身体に似合わず、菜摘の酒量は蟒蛇(うわばみ)だった。

「うれピーよぉ~、うれピーよぉ~! 三井くぅん~!」

 菜摘は酔っぱらって、時の流行語を連発していた。

「でも、三井くんが社長になると、菜摘ともお別れだねっ。三井くん、おめれと......」
 酒豪の菜摘が、珍しくベロンベロンだった。