>  > 東京ピカレスク~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ 第26回 ピカロの追跡 後編 「狙われた家族」
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東京ピカレスク~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ 第26回 ピカロの追跡 後編 「狙われた家族」

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堕ちていくムスメ


「どうも、ジュニアです」
 さわやかな風貌のイケメン社長・上村(かみむら)一彦(かずひこ)こと、愛称"ジュニア"が昌子に名刺を渡した。
 名刺には『Journey(ジャーニー) Junior(ジュニア) Club(クラブ)』、役職はCPOと書かれている。

(ジャニーズのパクリみたいな会社名だな)
 オレは名刺を見て思った。

 だが、ジュニアのようなイケメンにこんな名刺を渡されたら、女の子なら誰でも「ジャニーズの関連会社?」と、勘ちがいするに違いない。
 昌子も名刺を見て、そう思ったのかもしれない。

「ジャニーズの子会社じゃないよ。Journey Juniorは『あてもなく彷徨(さまよ)う子供たち』の意味なんだ。ちょうど、今のアナタみたいな困っている若い子らを安住の地、つまり適職につかせるのがボクらの仕事です」
 そんな疑問を払拭するように、ジュニアは自分の会社の業務内容を昌子に説明した。
 昌子はコーヒーを手に、ジュニアの話に聞き入っていた。

 新宿歌舞伎町のランドマーク『嵐林(らんりん)会館(かいかん)』の1階には、ピカロたちがたむろする喫茶店がある。魑魅魍魎の巣窟、喫茶バリマドンナであった。店内にはヤクザ風の客が3組、悪羅悪羅系のファッションで身を包んだ若者グループが2組。同伴の待ち合わせをしていると思われる、ホステス風の女が数名いた。

「大丈夫?」
 ジュニアは突然、昌子に向かって声をかけた。

「はぁ」
 昌子は、戸惑ったように答える。

「ここはね、歌舞伎町という土地柄、怖そうな人たちばかりくるところだけど、心配しないでいいよ。ボクの世話になっている三井さんが、助けてやってくれって頼んできたんだもの。ボクも精一杯、力を貸すよ」
 ジュニアはテーブルに上半身を乗りだし、昌子に顔を近づけていった。

 一瞬、昌子の表情に安堵の色が浮かんだ。

「で、ボクなりにいろいろ考えたんだけど、会社が終わってからできる高額で簡単なバイトをやる気はない?」
「それって、風俗じゃ......」
「風俗じゃないよ」
 昌子の問いを、ジュニアはきっぱりと突っぱねた。

「アニメなどの声優を志望する女の子らに人気のバイトなんだ。ボクたちは、テレホンアイドルと呼んでいるだけど......これは人気があればあるほど、収入も上がる。アナタみたいな、きれいな声の女の子にはふさわしい仕事だと思うんだ」
 昌子は、真剣にジュニアの話を聞いている。

 簡単にいえば、当時はやっていたテレクラやダイヤルQ2などのサクラだった。


(これは決まったな)


 ジュニアと話し合って、小一時間。昌子はジュニアの会社に登録することになる。
 ここで稼いだカネで、わが鈴彰グループの借金を払う契約がなされる。とりあえずは分割返済の契約だった。

 ジュニアは、オレを見てニンマリと笑った。

 なぜなら、ジュニアには昌子がどんな業種で働いても、その稼ぎの15%がマネージメント料(=永久歩合)として入り、オレにもジュニアから5%の配当が渡されるようになる。

 女に仕事を斡旋(=売り飛ばした)した、裏金融業界の余禄であった。

 出会いから、1か月後。


「あぁ、あの阿見昌子ね。今度、吉原の高級ソープで働くことになりましたよ」


 ジュニアからの電話で、昌子がソープに身を沈めたと知った。阿見の借金は、ソープからのバンス(=前借り)で一括返済となり、この案件は終息した。さすが、ジュニアはスゴ腕だった。

 その後、歌舞伎町のホストクラブに集金にいった日に、オレは偶然に昌子と会っている。

 ピンドン(=ドンペリピンク)の空き瓶、シャンパンタワーの残骸などが昌子のテーブルに散乱していた。
 昌子の着るもの身に着けているもの、すべてがブランド品で飾られていた。


(人って変われば変わるもんだな)


 確かに昌子はいい女になってはいたが、借金の保証人になるように押しかけたころ感じた、若さだけが持つ溌剌とした精気は完全に失われていた。本人は、オレを歯牙にもかけないような目で見ていたことが印象深い。

 奇しくも、昌子がボーナスをもらったら一人暮らししたいと夢を語っていた、師走の出来事であった。


tokyopica26-2.jpg

-to be continued-   

※写真はイメージです