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東京ピカレスク~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ 第26回 ピカロの追跡 後編 「狙われた家族」

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連載第26回 ピカロの追跡 後編 「狙われた家族」


文/三井裕二・監修/坂本敏也・構成/影野臣直

これは実在するひとりの男の転落と更生の物語である。

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あらすじ
三井は債権の踏み倒しを画策した阿見の借金を娘に返済させるよう提案した。


「というわけで、おとうさんの借金の連帯保証人になってもらいたいんだ」
 オレは阿見の自宅に戻り、ムスメの阿見(あみ)昌子(まさこ)に借用証書を提示していった。

「で、でも......」
 昌子は、今にも泣きだしそうな表情でつぶやいた。

「ワタシ、今年短大を出て、今の会社に入社したばかりですよ。そんなペーペーが、借金の保証人になるなんてムリですよ」
 昌子は、愛くるしい顔を父に向けた。

「す、すまん。おとうさんが不甲斐ないばかりに......」
 阿見は、昌子の目を見ようとしない。ただただ、申し訳なさそうに頭を下げていた。

「だから、ムリです!」
 昌子は、立ち上がって叫んだ。

「だいたい、手取りで11万円を切る薄給のOLが、どうしたら200万円もの借金を払えるんですか!常識で考えてください!」
 20年前の短大卒の女子社員の初任給の平均額は、15万8千700円である。

 そこから源泉を10%徴収され、社内預金や各種積立金、福利厚生費等を諸雑費を引かれ、実質昌子の手元に残る金額は10万円ちょっと、というところだろうか。

 阿見の叔父と従兄弟が支払ってくれた金額が、2人合わせて100万円。残債は200万円である。
 こちらが最大限譲歩して20万円の10回払いの分割にしても、一介のOLである昌子の給料では1回の支払い分には10万円も足りない。

「勤めはじめて来月で半年。やっと信用もできて、年末にボーナスをもらったら一人暮らしをはじめようと思っていたのに......」
 昌子は最後まで言い終わらぬうちに、頭を抱えて阿見家の薄汚れた畳に顔を埋めて泣きだした。

 オレは昌子の横に移動し、彼女の耳元でささやいた。

「オレたちも、そんなことはわかっているよ。ただ、アンタにも仕事があるように、オレたちにも仕事がある。ここで、アンタのおとうさんに逃げられたら、この借金の責任をとらされるのはオレたちなんだ。オレたちだって、所詮はアンタと同じ勤め人なんだから」
 いくら慰めても、昌子はむせび泣いている。阿見は、黙ったままうつむいていた。

「おい、アンタ! 実のムスメがこんなに苦しんでいるというのに、アンタらはなにもしてやらないのか! もともと、夜逃げの資金として借りたカネだろうが! ホント、オマエらって最低だよな!」
 オレは、阿見夫妻を怒鳴りつけた。オレの咆哮に、寝ていた息子が起きて泣きだした。

 罵声に、泣声に、嗚咽。阿見家の薄汚れた居間は、まるで地獄絵図のようだった。

「お嬢ちゃん。おとうさんの借金は、オレたちをダマして踏み倒そうとしたカネなんだよ。なのに捕まったら、ムスメに払わそうとする。そんな親のいうことは聞かなくていい。どうだい、オレがいい方法を教えてあげるから、ここはオレに任せてみないか」
 オレ自身、気持ち悪いと思うほどの猫なで声でささやいた。

 これが功を奏したのか、昌子はゆっくりと顔をあげた。

「アンタは若い。将来もあるし、夢もあるだろう。そして、アンタもオレたちと同じ被害者なんだ。だから、オレたちとアンタで債権者会議を開こう。それが、おとうさんを助ける近道だ」
「さいけんしゃ......会議?」
「あぁ、家族全員が助かって、借金も返済できる方法を考えよう。これから、信用できる人を紹介するから」

 オレは熱い眼差しで昌子を見た。
 昌子もそれに呼応し、小さくうなずいた。


(ヨッシャ!)


 昌子を連れだすことに成功したオレは、思わず心の中で叫んでいた。