新章「サイバーアウトロー」連載第30回 新たなピカロ
これは実在するひとりの男の転落と更生の物語である。

あらすじ
鈴彰と袂をわかった三井の元に歌舞伎町のあの武闘派ヤクザが訪れた
「ねぇ、先生。オレ、独立しようと思ってんだ」
『先生』とはオレの真の友人であり、こののち生涯の仕事のパートナーとなる、鹿児島(かごしま)太(ふとし)という相棒の愛称である。年はオレより5つも下であったが、若いのにガンバリ屋であり、お互いがお互いを尊敬しあえる仲であった。
「どうだい、一緒にやってくれないか」
オレは、真剣な眼差しで鹿児島を見た。
「はぁ。なに、それ......」
鹿児島は、いぶかしげな表情でつぶやいた。前述したように、オレは8年間勤めた鈴彰グループを退社した。べつに、鈴彰に不満があったわけではない。
ただ、鈴彰の加護の下で独立させてもらうのではなく、三井裕二という男個人の力を試したくてグループを抜けたのだ。同じ裏金融業じゃ、鈴彰には敵わない。オレは新規の事業で、鈴彰みたいになりたかったのである。
しかし、1人で大きな事業を興すのはムリだ。新たに組織を創るとなると、オレをサポートしてくれる相棒がいる。お互いを知りつくし、認め合った鹿児島こそがオレの良きパートナーになりうると考えていた。
「う~ん、協力してあげたいけど......でも、師匠。やっぱり、それはムリだよ」
鹿児島は、残念そうに断わりをいれた。
オレは鹿児島を先生と呼び、鹿児島はオレを『師匠』と呼ぶ。
初めて彼と出会ったのは、東京にフランチャイズチェーンを持つ『グリルドール』というファミレスだった。
その日、オレは歌舞伎町の武闘派ヤクザ・秋山省吾から呼びだしを受けていた。占有でトラブった秋山と出会って、すでに5年が経っていた。
最初は仕事のことで何度もバッティングしたが、このころにはお互いの気心もしれ、逆に秋山がオレをかわいがってくれるようになっていた。
「おい、三井。オマエ、パソコンが得意だったよな」
席に着いた秋山は、唐突に切りだした。
「は、はぁ......まぁ、一応、人並みには......」
オレは、当たりさわりのないように答えた。
「じゃあ、コイツにパソコンを教えてやってくれねぇか」
秋山の横には、ガッチリとした体躯の若者が座っている。秋山に似て、顔はイカつかった。
若い男はオレを見て、ペコリと頭を下げた。
「ウチの事務所もよ、時代の流れでパソコンを置くようになったんだ。だが、いかんせんイケイケ組員ばかりで、誰も使いこなせねぇんだ。簡単なメールすら見ることもできないので、オレの遠縁にあたる、この鹿児島に頼んだんだが......」
若いから大丈夫だろうと思ったものの、頼りにしていた鹿児島もパソコンに関しての知識は皆無だった。
それで、オレを呼びだしたのである。
「どうも、はじめまして。ワタシ、鹿児島太という若輩者でございます。どうか、面体お見知りおき万端、よろしゅうお頼み申します」
初対面で、いきなりVシネマに出てくるような仁義を切る鹿児島。正直、初対面のオレはドン引きだった。