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東京ピカレスク~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ 第22回 Jリーグに群がるピカロたち 続・新宿ヤクザVSピカロ

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連載第22回 Jリーグに群がるピカロたち 続・新宿ヤクザVSピカロ


文/三井裕二・監修/坂本敏也・構成/影野臣直

これは実在するひとりの男の転落と更生の物語である。

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あらすじ
順調に仕事を進めていた三井は倒産したスポーツグッズの債権者集会に向かった。そこで再び〝あの男〟と対峙することになった。


「え~ぇ~。さ、債権者のみなさん。今回は、本当に申し訳ありませんでした。すべて、ワタシの不徳のいたすところでして......」

 秋山組長に連れてこられた社長の工藤(くどう)悠太郎((ゆうたろう)は、債権者の矢面に立たされ、汗を拭いながら小さな声でつぶやくようにいった。

「こら!なに言ってんのか、聞こえねぇぞ!」

 オレと鈴木の背後の債権者から声があがる。
 ユニフォーム縫製会社の社員たちだった。

「おい!オレたちを安い給料で散々こきつかいやがって、今月の給料はどうなるんだ! 退職金はどうなんだよ! えぇ、社長さんよぉ!」

 元JショップVの社員らからも、倒産した社長への非難ともとれる声が上がる。
 彼らは明日から失業者なのだから、恨み骨髄に徹す、である。

「アホんだら! ワシんとこはカタログの印刷代と、選手名鑑の製作費が丸ごとパーやど! 社長がアホやから会社が潰れてしもたんや、責任とったらんかい! ワシんとこの損害、どないすんねん!」
 関西の業者だろうか。汚い関西弁で、社長に罵声を浴びせている。

「そうだ、そうだ!」
 この業者の威勢のいい発言に触発されたのか、他の債権者たちもあちらこちらから雄叫(おたけ)びをあげた。

(まいったなぁ、このままでは収拾がつかなくなるぞ。これは、長くかかるな)

 そう思ったときだった。

「あぁん」

 工藤社長の脇にいた秋山が、小さく声を発した。そして、ゆっくりと周囲を睨みつけた。

「.........」
 秋山の貫目なのか、修羅場をくぐってきた人間だけが持つ迫力なのか。ケンカ腰だった債権者たちは、たちまち黙って肩をすくめた。

 秋山は、そのまま社長の前にでて話しはじめる。

「えぇ~、ワタシは歌舞伎町の秋山省吾と申します。会社名は、ここではいえません。もし、訊きたい方がおられましたら、個人的に名刺を交わします。社長とは友人で、この会社のピンチのときに若干額のおカネを貸しとります。金額は一本ですわ」

 秋山は人指し指を立て、周囲を見回した。

「なんで、アンタが出てくんだよ! それに、大きなこと言ってるけど、一本っていくらだよ! 100万か! ウチは1千200万だぞ、1千200万!」
 パリッとした会社役員風の男が、秋山に向かって吠えた。

「ハハハ......ケタが違いますわ。ワシは1億でっせ、1億。それもアンタらと違って、ワシは工藤悠太郎という男に惚れて無利子で融通しとります」
 秋山が堂々と答える。だが、男も負けていなかった。

「歌舞伎町の秋山さんとやら。今日は債権者会議として、ワタシらはここに来ています。債権者会議には、弁護士の管財人が必要です。アンタ、弁護士さんですか。違うんでしたら、管財人を立ててみんなで話し合いましょう。それか......」

 男に最後まで言わせず、秋山は口をはさんだ。

「管財人はいてますで! みなさんもご存じの、飛びきり優秀な弁護士さんがJショップVの破産管財人になってくれてます。さぁ、先生、どうぞ!」
 秋山の呼びかけで、人山のうしろから弁護士が現れる。


(あっ、宮崎先生!)


 小松崎愛のクルマを引き上げたとき世話になった、悪徳弁護士の宮崎(みやざき)武(たけし)であった。
 債権者らからも、「おぉ!」の声があがる。さすがに人気テレビ番組、『トラブった人たちの法律相談所』のレギュラー弁護士だけに知名度は抜群であった。

「先生、どうぞ」
 秋山が悪徳弁護士を促す。

「どうも、弁護士の宮崎です。JショップVの破産管財人とならせていただきます。どうか、よろしくお願いします」
 言い終わるや否や、宮崎は茶封筒からなにやら書類を取りだした。

「債権者のみなさん。ワタシがですね、会社の資産を調べてみましたところ、このビルは持ちビルではありません。賃貸で借りておりますし、保証金が店賃の3ヶ月分しか入っておらず、滞納した店賃2ヶ月分で大家との間で相殺されてしまいます」

 宮崎は老眼鏡を取出し、書類の記載事項を確認しながら話を続けた。 

「社長の自宅も住宅ローンが20年分残っておりまして、銀行側から第一抵当権がつけられており、われわれが手を出せる状態ではありません。そして......」
 それから、数万円単位で会社から回収できる金額を読みあげていく。総額で300万円程度だった。

(話になんねぇな)
 宮崎の読みあげるのを聞きながら、オレは秋山の方を見た。1億円貸したという秋山は、整理された資産が300万円というのに焦ったようすもない。


(秋山はカネなど貸してないな)


 秋山自身が第一債権者になろうと、金銭の授受のない架空の借用書でも書かせたのだろう。秋山の絵図が見えてきたような気がした。

「さきほど、みなさんが社長を非難してましたが、そもそもそんな会社で働いていたのはアンタらでっせ。それに、今までは『社長、社長』ゆうて、シッポふって付き合ってたんちゃいますの。それが倒産したとたんに、今まで世話になった社長をボロカスにいうんでっか。ワシらの世界じゃ、考えられませんわ」
 秋山は、人の道を説く高僧のように話しだす。