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東京ピカレスク~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ 第19回 鈴彰の消せぬ過去

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連載第19回 鈴彰の消せぬ過去


文/三井裕二・監修/坂本敏也・構成/影野臣直

これは実在するひとりの男の転落と更生の物語である。

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前回までのあらすじ
三井は鈴彰グループの定期総会でトップ3に入り、意気揚々と会社に戻ってきた。しかし鈴彰から突如呼び出しの電話がかかる。はたして呼び出した理由とは?


「あら、三井ちゃん。いらっしゃい。ボックス席に、鈴彰さんがいらっしゃってるわよ」
Bar『ヨシエザウルス』のママ・桜木吉江は、元従業員だったオレを満面の笑みで迎えてくれた。

「ママ、その節はお世話になりました。勝手に辞めて、申し訳ありませんでした」
退店したときも謝罪はしていたが、今回は鈴彰に呼ばれ客としてきている。勤務先のトップの顔をつぶさないようにと、オレなりの配慮だった。

「いいのよ、アナタが選んだ道なんだもの。さぁ、鈴彰さんが待ってるわ。早くいきなさい」
吉江ママは、大きなツケまつ毛の目を瞬かせながらいった。オレは、ママに一礼して鈴彰の席に着いた。

「よう」
鈴彰は、ニコリともせずにいった。

(やはり、このまえの秋山興業の件でトラブってるのかなぁ)
オレの胸中に不安が広がる。

「おい、座ったらどうだ」
立ったままボーッとしているオレに気づいたのか、鈴彰は席に着くよう促した。

「失礼します」
オレは、鈴彰のまえに無造作に座った。

「なんだ、このまえのことが気になっているのか」
鈴彰は、オレの心を見透かすようにいった。

一瞬、オレはギクッと狼狽えてしまった。

「あぁ、あれは大丈夫だ。なにも心配することはない」
占有でモメた件は、鈴彰のケツもちと秋山興業が同門だったということで、穏便に話はついたという。

「元金も立て替えてくれたし、こちらの顔も立ててもらっている。ウチの損害は一銭もない。まぁ、オマエがボコられたぐらいかな、被害は。フフフ......」
鈴彰が笑みを浮かべて説明してくれたので、オレはホッとし肩の荷が下りたようだった。

「だがな、オマエ。なぜ秋山興業の立ち入り禁止の貼紙を勝手に剥がしたんだ」
笑顔はすぐ消え、鈴彰は眼光鋭くオレを睨んだ。

「い、いや......なにがなんでも、占有しなければと思い......」
「新入りの坂田のまえで、いいカッコしようと思ったんじゃないのか。ワルぶる坂田に、先輩づらしたくって」

図星だった。

オレは鈴彰の推察に舌を巻いた。

「まぁ、今回はうまく話がついたからよかったものの、いつも運よくいくとは限らない。まずは、上司にうかがいを立てることを忘れるな。オマエは、まだ新米なんだからな。とはいえ、先月はがんばったじゃないか......」

「は、はい。すいませんでした」
鈴彰は最後にフォローしてくれたが、オレはガックリとうなだれてしまっていた。

「いいか、三井。オレもオマエも堅気だ。堅気がヤクザを甘く見ると、オマエもオレみたいになるぞ」
鈴彰は、オレの前に欠損した親指を示した。

「ムリとムチャは違う。ムリはしてもいいが、ムチャをするのは愚か者だけだ」
鈴彰は、まじめな表情で話し始めた。

普段は無口な鈴彰だったが、酒が入ると饒舌になる。鈴彰は、ロックグラスのワイルドターキーを一気に飲み干した。

そして、オレのグラスにもバーボンを注いだ。

「オレも五十嵐も、若いころはムチャばかりやっていた。オレなんか、歌舞伎町でヤクザを見かけると、わざとケンカを売ってまわったもんだった」

鈴彰は、珍しく昔話をはじめる。オレは黙って耳を傾けた。