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東京ピカレスク~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ 第14回

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連載第14回 ピカロの営業


文/三井裕二・監修/坂本敏也・構成/影野臣直

これは実在するひとりの男の転落と更生の物語である。

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前回までのあらすじ
ピカロの守護者、宮崎弁護士によってトラブルを解決した三井は新たな顧客を獲得すべく営業にいそしむのだが......


「はい。それでは、すべて話がついたわけですね。はぁ、牧川に宮崎事務所にくるように伝えるんですね。了解しました。先生、ありがとうございました」
オレは受話器を持ったまま、頭をさげた。

「ウフフ......」
オレの仕草がおかしかったのか、うしろで菜摘の笑い声が聞こえた。

「あっ、榎本さん。社長に、宮崎事務所にくるようにとのことです」
菜摘は、小さくうなずいた。

「わかったわ。でも、それは小松崎を担当した、アナタが直接つたえてね。電話でも用件でも、受けた当事者が上司に伝えるのがこの世界の常識よ。言い間違えたら、誰が責任とるの......でしょ?」
相変わらず先輩風を吹かす菜摘だが、はじめての業界で無知なオレには彼女のアドバイスはありがたかった。

「小松崎の一件は終わったから、あらたに新規の貸付先を探さなくっちゃ。さぁ、アポ取りがんばってね」
菜摘は、それだけいうと席に戻った。オレは菜摘にいわれたとおり、アポ取りをはじめた。

「もしもし、尾田印刷さまでいらっしゃいますか?」
「もしもし、河山写真店さまでいらっしゃいますか?」
「もしもし、大嶋運送さまでいらしゃいますか」
オレは菜摘から渡されたデータを元に、電話をかけまくった。

いくら潤沢な資金があっても、借り手がいなくては闇金業は成り立たない。
需要と供給のバランスを維持するため、新規の貸付先を探すのも金融業者の大切な仕事なのである。

「こちら、ローンズまきかわの三井と申しますが、社長様いらっしゃいますでしょうか」
勧誘の電話は、あくまでもソフトに丁重な言葉づかいが要求される。

オレは自分のだす猫なで声に、いささか嫌悪感を抱いたほどである。
また、ここではローンズまきかわを名のっているが、個人商店に毛の生えたような家内工業者などには女房や身内がいるため、余計な詮索をさせないために個人名で勧誘することもある。

常にケースバイケース、新規の顧客開拓は柔軟に対応することが必要とされる。

「あっ、社長さまでいらっしゃいますか。実は、ご融資の相談をさせていただきたく、お電話をさせていただきました」
そして、社長が出れば単刀直入に用件を切りだす。

「ふ~ん、考えてもいいけど、どうせ金利が高いんでしょ?」
一蹴されることがほとんどだが、たまには話にのってくる客もいる。

この場合は本気か冷やかしか、よく話してみなければ無駄足を踏むことになる。

「いえいえ、会社の営業状況を調査いたしまして、金利は変わってまいります」
冷やかしでないことがわかると、猛プッシュする。もちろん、こちらが貸し付けたがっていることを、相手に感じさせてはいけない。

「最低で、どのぐらいの金利なの?近々に支払いがあるけど、それに間に合うかな?」
具体的に会社の内情等を話してくれば、かなりの確率で釣れる(=貸し付けできる)場合が多い。

わが鈴彰グループは、基本トサン(=10日で3割の金利)の高利貸しである。
だが、話してみて堅くて堅実な業者には、トイチ(=10日で1割の金利)で貸し付けることもある。

ヒドいときは、3日で倍返し(=元金を3日で倍にして返済)の貸付をしたこともある。
すべては、担当となった者の判断で決まる。

「それじゃ、考えてみるよ。アンタの名前と連絡先を教えてよ」
銀行や公庫とは違い、審査が簡単ですぐにカネが下りるとしると、このような答えが返ってくる。

もちろん、データの良し悪しにも関係するが、最終的には担当の手腕である。
だから、新規の貸し付けを多く獲得した者は、毎月一回の鈴彰グループの総会で表彰され、賞金まで授与されるのである。

結果、都内に持家兼工場を持っている尾田印刷には、月一(=月に1割の金利)で貸し付け、河山写真店には飛びそうなので鈴彰グループの基本金利であるトサン。大嶋運送にはトラックの車検と譲渡書等の書類を入れてもらうことでトイチで貸すことに決定した。