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東京ピカレスク~闇社会に君臨するピカロ(悪漢)~ 第13回

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連載第13回 ピカロの守護者


文/三井裕二・監修/坂本敏也・構成/影野臣直

これは実在するひとりの男の転落と更生の物語である。

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前回までのあらすじ
会社倒産で三井たちがフェラーリを引き上げたタレントの小松崎愛が写真週刊誌で三井たちの行状を告発した。


「社長!これ、ごらんになられました?」

翌日朝一、オレは小黒からもらった週刊PHOTO SHOTを、牧川のデスクに置いた。

「あぁ。まぁ、しかたないな。この稼業をやっていれば、マスコミに叩かれることは日常茶飯事だよ」
牧川は雑誌をパラパラめくりながら、苦々しげにいった。

「社長、どうします。命の次に大事なカネを貸したのに、返さないで踏み倒したくせに......オレが編集部に行って、クンロクいれてきましょうか?」
実際、カネを借りて、逃げたのは事実である。オレは、鈴彰の『カネが一番大切なんだ』という薫陶を人一倍受けていた。

バカヤロウ!んなことしたら、パクられちまうだろ。オレたちゃヤクザじゃないんだ、高利貸しなんだ。もし、パクられてでもした日にゃ、ウチの会社が潰されちまう」
「はぁ、そうですよねぇ」

牧川は座っているイスを回して、オレに背中を向けた。
週刊誌に載ったことを、どう対処するか考えているように思える。

オレは、オタクたちを相手にしたときの牧川の攻撃的な性格を、目の当たりにしている。だからこそ、写真週刊誌を相手にケンカするのだと早とちりしたのである。
だが、牧川には凶暴な一面がある反面、沈着冷静な判断力も持ち合わせていた。

「三井くん。宮崎武(みやざき たけし)先生をしらなかったっけ?」
牧川はゆっくりとイスを回し、オレと向き合った。

宮崎武は、ちょくちょくテレビにも出ている有名弁護士だ。オレも、名前だけは知っていた。

「今回の件は、弁護士を代理人として動いてもらう。オマエは一切、手も口もだすな。これから宮崎先生の事務所にいって、小松崎愛のクルマを引き上げてきた経緯を説明するんだ」

牧川はそれだけいうと、デスクの中から厚い封筒を取り出しオレの目の前に置いた。

デスクの上には、見覚えのある茶封筒......忘れもしない。
小松崎愛のファンクラブのオタクたちに襲われたとき、合鍵屋の関内のオヤジが届けてくれた書類だった。

「いいか。あのクルマを押さえたのは、債権整理でやったこと。もちろん借用書上、小松崎愛が連帯保証人だが、警察がヤル気になったらどんな軽微な事案でも事件として立件することができる。だから、刑事事件に発展するまえに、小松崎と和解調停してしまうんだ

「はい」

「そこで、盗難したわけではないことを、ちゃんと証明するんだぞ。民事だって、ひとつ間違えれば刑事事件として扱われ、われわれの逮捕だってあるからな」
牧川は、金縁メガネの眉間部に指をあて目を光らせた。
これは、牧川が慎重に考えているときのクセである。

「は、はい!」
オレは牧川の真剣な面もちに、身がしまる思いだった。

それにテレビのニュースのように、弁護士だの逮捕だのと社長の口からポンポン出ることで、あらためてオレは悪漢(ピカロ)の世界に身を置いていることを実感させられたのである。
事務所を出るときも、有名な宮崎弁護士事務所に入るときも、緊張感で胸の鼓動が高まった。