俳優志望の中年が様々な日雇いバイトを経験。その驚愕の現場をレポートする新シリーズ。今回は高収入バイトの代表「治験」だ!
2月某日~某日(月曜日~木曜日)
すみません、自分、いきなりウソをつきます。
"日雇い"とか言いながら、今回は4日間の短期バイト日記になってしまいます。なぜならば、自分のような日雇い暮らし仲間の間では通称『じゃ○ん』と呼ばれるバイトだからです。
その内容とは『治験』です。
新しく開発された医薬品の製造販売に関して、医薬品医療機器等法上の承認を得るために行われる臨床試験です。簡単に説明すれば実験台です。
それゆえに一日ではなく、入院して行うので、その日暮らしの自分のような人間にとっては旅行気分です。だから『じゃ○ん』って呼んでいます。だって、募集の案件は「3泊4日で15万円」とまるでグアム旅行のような条件じゃないですか。まぁ、こっちはもらえるんですけど。
オイシイ感じですよね?しかし、条件がけっこう厳しかったりします。たとえば、『治験』って、健康じゃないといけないというイメージがありますよね?しかし、ある日の案件は『20歳~74歳の悪性腫瘍経験者』です。つまり、癌になった方でないと働けないわけです。
その他にも「二年以内に糖尿病になった人」や「腎臓が悪い人」といった条件があります。まぁ、薬の効果を調べるのですから当然といえば当然ですけど......。それにしても、病人を募集しながら、実行場所を<○○(某所)の施設♪>と、"♪"付きで紹介するサイトのセンスを疑ってしまいますが......。

内容とは裏腹に音符が踊るメール
もちろん、自分のような貧乏だけど健康な者にもチャンスがありますが、そんなに条件は良くないです。3泊4日で10万円といったところでしょうか。しかし、投薬時間なんて僅かなことが多く、その大半を読書やDVDを観て過ごせる。
自分は、その間に台本を覚える......そんな環境を想像して応募しました。まぁ、台本を覚えるような仕事が無いから、応募したので、実際は一日中、ボ~っとしているのが現実です。だけど、けっこうキツイです。
たとえば一日に何本も注射を打たれます。それは投薬の場合もありますが、採血も多く、点滴の場合もあり腕が針の穴だらけになります。
また、何度も規則正しく薬を飲まされますが、その都度、スタッフに舌を持たれて「ベー」っと、させられます。つまり、本当に飲んだかどうかをチェックされるワケですが、女性スタッフにされると、なんだかSとMの関係のようでドキドキです。
それはさておき、このように薬を飲んで何も無ければ、このバイトは最高です。
しかし、多くの場合は何かしら起こります。
自分の場合は、かなりの確率で蕁麻疹が出ます。投薬から3時間後に、モーレツにカラダ中が痒くなります。3泊4日の一日目からコレなのです。時には気が狂いそうになります。
また咳が止まらなくなって、呼吸困難になったこともあります。そして、自分と同じく治験バイトした人の中には、なぜか知りませんが、気分が落ち込み、3か月間ほど鬱状態に陥った人もいます。また、逆に3日間、ものすごく楽しい状況が続いた人もいます。つまり何かしらの副作用が起こりうるのです。
もちろん、副作用に対しては治療してもらえますが、期間が終わった後に通院することになると、指定の病院へ通わされることがあります。おそらく、情報漏えいを防ぐためでしょう。
しかし、副作用よりも一番恐いのは
「何かが起こっても責任は問わない」
的な誓約書に署名・捺印する瞬間でしょうか。賭博にも似た感じです。
今回は今のところ、初日に蕁麻疹が出ただけで、何もありません。しかし、明日、何が起こるかわかりません。このような連載のお話をいただいて早々ではありますが、今回で終わってしまったら、そういうことです......。
(文=梅田隆策)