>  > 山口組実録シリーズ 「菱の血判」その⑱ ~「使用者責任」をめぐる攻防~
日本の裏社会で今、なにが起ころうとしているのか?

山口組実録シリーズ 「菱の血判」その⑱ ~「使用者責任」をめぐる攻防~

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 創立100周年目の山口組に起きた「別れ」という離脱分裂劇。マスコミ等では分裂理由を、主に会費の高騰、と紹介しているが、血で血を洗いながら100年間も続いた組織の分裂理由はそんな単純なものではない。
「11年前に戻っただけや」
 分裂理由の真相を知る幹部たちは残念顔でこう言った。山口組は11年前から神戸一派と名古屋一派との間で確執が生じていた。脈々と沸々と続いていたものがこの度遂に分裂というかたちで表面化したのである。六代目山口組の分裂劇とは一体何なのか? 山口組に詳しい藤原良氏に解説してもらった。


「使用者責任」という名の抑止力


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写真はイメージです

 使用者責任とは使用者に損害賠償をさせる法律(民法第715条)だが、暴力団対策法における使用者責任とは、暴力団組員が行った犯罪について
「暴力団の組織力を活用しており、組長が最も責任を問われる立場にある」
「その責任は実行犯を上回る」
など組長こそが首謀者であると断罪するもので、実行犯を上回るほどの極刑判決、または損害賠償金の支払いなどを言い渡される場合も多い。組員がした事が組長の責任へとダイレクトに結びつけられて、処罰されてしまうのである。

 法の拡大解釈とも言われてはいるが、実際、もうすでに判例も多く、暴力団関係の裁判や事案については恒常化した感も強い。つまり、直接やった奴(=実行犯)だけが悪い、という理屈がもう通用しないのである。暴力団事件の未然防止や治安維持といった面では大変威力のある法律である。

 この連載の17回目でも記したが、暴対法施行前の時代でさえも、事後の予想状況をわずらわしく感じた組員が、抗争時に自らすすんで破門者となって、組との所属関係を断ち切った上でヒットマンとなった例もいくつかある。ここまで腹をくくって地下に潜るヒットマンが3人いれば、「必ず抗争に勝てる」とまで言われていた。

 ──が、現在のヤクザ暴力団業界にはこの様なスタイルや考え方は少なく「登録組員」である事にこだわりを持つ者も多いがゆえに、地下に潜るヒットマンは誕生しにくいだろう。なにより暴対法による使用者責任の仕組みが組長、および組員たちの両肩に、カセのように重くのしかかっている。意識するなと言うほうが無茶だと思えるほど、厳しい判例がいくつもある。

 事件を起こした組員にしてみれば、自分が引き起こした事件のせいで組長が逮捕されたり、巨額の賠償を命じられたりして組織運営に支障をきたし、果ては組の解散にでもなってしまったら、組員自身が帰る場所を失ってしまうという危機感もある。「親分のため」と言えば格好もいいが、組員自身、「自分自身の保身のため」という考えもある。ともあれ、暴対法における使用者責任という法律が暴力団に対して強い抑制力と断罪機能を持っている事に変わりはない。