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元極道の異色作家・沖田臥竜のニュース解説  「プロ」はニュースはこう読む!

数ある犯罪のなかでもスリだけが特殊なワケ

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10月31日夜、ハロウィンで賑わう渋谷の街で、女性の財布を盗んだとして、警視庁大崎署は無職・覚張洋一郎容疑者(36)を逮捕しました。容疑は、渋谷のセンター街の路上で女性会社員(22)の手提げかばんから現金約1万円などが入った財布をすりとった疑い。覚張容疑者は「所持金が200円しかなく、生活費にするためだった」と容疑を認めているそうです。


日本の歴史の中の伝統芸としてのスリ!?


 スリの世界というものは、実のところ、意外と奥深いものだったりする。

 私がまだ20代前半の頃、留置場で寝食を共に過ごしたスリ師から、こんな話を聞いたことがある。

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写真はイメージです

 本格的にスリをシノギとして活動している者にはお師匠さんがいるらしく、お師匠さんと門下生という、さながら、落語界のような仕組みになっているというのだ。

 また、スリをしてよい場所のテリトリーといったものもちゃんと線引きされており、この競馬場は〇〇一門、このボート場は〇〇門下生といった具合に決められているのだ、と聞かされた。

 ちなみに、そのスリ師は、ボート場を主な活動範囲としていたらしく、今回はそこで逮捕されたとのことだった。

「お師匠さんはもう隠居され、現場には出てへんけど、そりゃあお師匠さんの仕事は職人芸やったで。いっぺんそれを見せられたら、兄ちゃんも惚れ込んでまう事間違いなしや」

 当時は、水を差してはいけないと思い、黙ってスリ師の話を聞いていたのだが、まともな人間なら財布をパクっているところを見たくらいで惚れはせんだろう

 要するに、それくらい凄かった、と言ったかったのだろう。

「もう、でもあかん。スリは廃(すた)れてもうた(栄えてどうする←私の心の声)。おっちゃんらの下がどの一門にもいてへん。もうこの業界も終わりや......」

 スリ師の業界が終わってくれれば、それはそれでめでたいことであるが、なんだがスリ師の話を聞いていると、伝統芸の衰退を嘆いているようで、とてもじゃないが、「ただのコソ泥やん」とは言えぬ雰囲気が醸し出されていた。

 さて前置きが長くなってしまった。ハロウィンのどさくさに紛れ、サイフをすろうと目論んだ洋一郎の考えは悪くない(やった行為は悪いけど......)。

 供述によれば、所持金が200円しかなかったらしいのだが、まさかそれは財産が200円ぽっちということなのか。36歳にもなって。だぶん、そのへんの小学生のほうがまだ持っているぞ。

 全財産が200円の36歳の洋一郎。もちろん、無職。だが200円しかなければ、働き口を探すことも難しいだろう。履歴書を買う金も面接に行く交通費もない。

 せめて刑務所に送られて労役すれば給料を得ることができるが、執行猶予つき判決でシャバに放り出されてしまえば、釈放後も200円スタートになることに変わりない。

 もしかしたら、洋一郎のことだ。計画性がなさそうなので、拘置所でアンパンなどを買ってしまいシャバに戻ったときには一文無しということだって考えられる。

 誰の手も借りず、そこからやり直す事が果たしてできるのだろうか。やり直すどころか、生きて行くことすら、あやしくないか。

 そもそも、これまでどうやって生きてきたのだろうか。なぜ、所持金が200円になる前にせめて働き口を探さなかったのか。流石に200では、誰だって再起を計れまい。

 中(=留置所や拘置所)で知りあった人間関係を頼りにしていくしか、もう術はなさそうであるが、果たして洋一郎、今後どうなっていくのであろうか。求刑や判決よりも、今後の洋一郎の人生のほうが気になってしかたない。




沖田臥竜
兵庫県尼崎市出身。日本最大の暴力団組織二次団体の元最高幹部。前科8犯。21歳から29歳までの8年間服役。その出所後わずか半年で逮捕され、30歳から34歳までまた4年間服役と、通算12年間を獄中で過ごす(うち9年間は独居)。現在、本サイトで小説『死に体』を好評連載中。