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日本の裏社会で今、なにが起ころうとしているのか?

山口組実録シリーズ 「菱の血判」その㉑ ~黄金時代~

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 創立100周年目の山口組に起きた「別れ」という離脱分裂劇。マスコミ等では分裂理由を、主に会費の高騰、と紹介しているが、血で血を洗いながら100年間も続いた組織の分裂理由はそんな単純なものではない。
「11年前に戻っただけや」
 分裂理由の真相を知る幹部たちは残念顔でこう言った。山口組は11年前から神戸一派と名古屋一派との間で確執が生じていた。脈々と沸々と続いていたものがこの度遂に分裂というかたちで表面化したのである。六代目山口組の分裂劇とは一体何なのか? 山口組に詳しい藤原良氏に解説してもらった。


「仁義」とは合理性より上位にある概念


 六代目山口組では、8月に起きた分裂騒動以降、移籍、脱退が相次いでいる。そのような六代目山口組離れについては、各人それぞれの理由によって行われている。

 <>b残留組と言われる現在の六代目山口組組員たちが移籍や脱退をしないのも、また各人それぞれの理由があるとされるが、本音的な部分での多くは、

◆移籍したとしても、受け入れ先に席がない。
◆現在の組内に借金等の金銭的縛りがある。
◆移籍や脱退をするとシノギが破錠する。
◆引退許可が出ない。
◆名古屋一派の主力として残留したい。

 マスコミ等で頻繁に言われている「高い会費」を払ってでも六代目山口組内に残留しなければならない理由は実にシビアでドライだ。

 ちなみに、会費とは、もちろん、組織によってその運用方法は様々だが、会費とうたう以上は、組織運営の運営費とされるのが普通である。

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『完本 山口組三代目 田岡一雄自伝』徳間文庫カレッジ

 三代目山口組時代までは、組織というよりも盃による擬似家族感が濃厚であったために、月々の会費というものはなかった。組員のシノギについても、親分が面倒をみる時が多かった。そして、なにかあった時に、各組員たちが、カンパというかたちで現金を集め合ってことにあたっていた。

 よく、金庫番と言われる幹部クラスがみんなよりも多めに現金を用立ててくれたりもしたのは、あくまでも、カンパ制であったからである。

 ただし、三代目代の後半になると、抗争により組員たちの裁判沙汰があまりにも増加し、それまでのように、親分や兄貴分が子分たちの裁判費用を支払うのが苦しくなり、それをおぎなうために会費制を用いた時期もあった。この会費制は言うまでもなく直接的な「運営費や維持費」として解釈できる。

 祭事の時は、経費等の金銭面はすべて親分がもってくれた。その分、組員たちは、寝ないで祭事行事にあたった。

 そんな中で、全組員たちは、任侠精神を全身にしみこませていった。

 三代目時代は、親分が会費を取る事は特になく、親分は子分たちに「正業を持て」と指導していた。ある企業家がのっぴきならない事情で三代目に仕事の相談に来た時、その企業家は話の冒頭ですぐに仕事の料金を掲示した。三代目は「安くみてもらっちゃ困る」と話した。これは仕事の料金の大小ではなく「先に金の話をされたこと」と「金さえ払えば何でもやってもらえるという考え方」に対して物申したのである。そして、その企業家は大変恐縮したという。三代目が大変な資産家であった事は周知の事実だが、金銭よりも、もっと違った世界、もっと先を見ていた人物であったと言えるのである。

 だが、昔と今とでは社会情勢が大きく異なる。現代の組織や団体において会費というシロモノは、(組織運営や維持といった面から言えば)あったほうが合理的だろう。親分がすべて面倒を見ていたら、税務署や警察の目が親分に向いてしまう可能性が高い。分割して各組員から徴収したほうがリスクが少ないのは理解できる。

 だが、ヤクザというものは、会費を払ったら誰でもなれるというようなものではない。ヤクザの中心にある理念は「盃」である。決して「会費」ではない。確かに、昔と今とではいろいろと違う。それでも昔は、ヤクザに会費等はなかった。そもそも、誰がいくら払うかなんてどうでもよかった。そんなことは、自分がヤクザであることとなんの関係もなかった。

 「別格」と言われたあるヤクザは「高級車で男の器量は計れん」と生涯質素な暮らしを続けた。ヤクザとは生き様である。そして男の見栄と任侠道は別物なのである。「金さえ払えば何でもやってもらえるという考え方」という考え方に対して、ヤクザの中のヤクザともいうべき山口組三代目が物申したという事実を、今こそ振り返るべきなのではないだろうか。

 仁義とは常に現実の中になければならない。仁義は空想や理念ではなく、現実社会で実現させてこその仁義なのである。自分の態度で、身を持って示してこその仁義であることを忘れるべきではない。

 なんにせよ、現在の六代目山口組に残留する組員たちにとって、会費等がヤクザで居続けるための保険のようになっていたとしたら、どうしてそんなふうになってしまったのかヤクザ業界全体として再検討、再思案、再確認する必要性があるのではないだろうか。


 (取材/文 藤原良)


※サムネイル画像はwikipeddia「田岡一雄」より引用(リンク