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連載小説『死に体』

第34話 こんな日に限って、会う人会う人がみんな優しい

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【ここまでのあらすじ】3人の命を殺めた罪で拘置所に収容中の藤城杏樹。杏樹の心の支えは、まめに面会に来てくれる恋人のヒカリやヒカリの子、英須(えいす)だった。一審の裁判で死刑判決を受けた杏樹に、控訴してほしいと必死に訴えかけるヒカリ。その姿に心が揺れる杏樹だったが、自分がしでかしてしまった罪の大きさが杏樹に控訴をためらわせる。そんなある日、杏樹はぼんやりとヒカリとの出会いを思い返していた。


連載小説『死に体』第34回 第ニ章(十ニ)

文/沖田臥龍


 なんだか、自分が人生の瀬戸際に立たされているというのが信じられないほど、この日の面会は平和に流れていった。

 死刑判決を言い渡された翌日にヒカリの涙を見て、(もしかしたら終わるんじゃないか......)と感じたことも錯覚に思えた。

「ほんじゃ、また明日ねっ」

「うんっ。いつもありがとうなっ。英須にもよろしく言うとってやっ」

 いつものように彼女は娑婆へ、オレは獄中へと戻って行った。


 午後3時を回っていたであろうか。房の中に時計などありはしないので、はっきりとした時間はわからない。

 房へと現れた連行担当に、視察口から弁護士面会を告げられたので、全くやる気の見当たらない、しょぼくれた国選弁護人が最期のお役目として、ひそひそとやって来たのかと思った。

 だが違った。

 弁護人専用の面会室というのは、一般面会室に比べ、少しだけ豪華だったりする。とは言っても、一般面会室よりも少しだけ広く、腰掛けるイスが少しだけしっかりしてるという程度だが......。

 オレより後に面会室へと入って来た弁護士は、同じ弁護士でもしょぼくれた国選弁護士とは月とスッポン。同じ弁護士というカテゴリーに入れることさえはばかれるくらい、正に"先生"だった。

 見た目だけで凄腕とわかる"先生"の目は、かけた眼鏡の奥で、キラリと光っていた。

 高そうだな、と思った。眼鏡がではない。眼鏡もだけど、弁護士費用のほうがだ。

"先生"は「東京弁護士会に所属する山田テツヤです」と、簡単な自己紹介をした後、来所した理由を話しはじめた。

「依頼人のご希望から表だってお名前を申し上げることはできませんが、その方からのたっての希望で、私がこの事件の控訴審を受け持たせていただくことになりました。

 もちろん、あなたが選任して下さればの話ですけどね」

 おっぉぉぉぉぉ!!!


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 どっかで見たことがあったような、このシチュエーション。

 かの成り上がり漫画。極道達のバイブル。あのストーリーと、ここだけ同じではないか!

 オレは心の中で絶叫した。もしや、このまま"タイムスリップ"してしまうのか!?