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連載小説『死に体』

第33話 HAPPY HAPPY LAST BIRTHDAY (後編)

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【ここまでのあらすじ】3人の命を殺めた罪で拘置所に収容中の藤城杏樹。杏樹の心の支えは、まめに面会に来てくれる恋人のヒカリやヒカリの子、英須(えいす)だった。一審の裁判で死刑判決を受けた杏樹に、控訴してほしいと必死に訴えかけるヒカリ。その姿に心が揺れる杏樹だったが、自分がしでかしてしまった罪の大きさが杏樹に控訴をためらわせる。そんなある日、杏樹はぼんやりとヒカリとの出会いを思い返していた。


連載小説『死に体』第33回 第ニ章(十一)

文/沖田臥龍

「これがいいっ!」

 ショーウィンドウの中で、ひときわ輝く指輪を英須が指差した。

 ......なかなかのお値段である。

「ほんなら、コレにしよかっ」

 英須にそうこたえ、営業スマイルをペタリと貼りつけ、無駄にニコニコしている店員に、「お姉ちゃん、コレちょうだいっ」と英須が選んだ指輪を指差した。

「くみちょう、英須の500円ちゃんと持ってきたかっ? 使ってないかっ!」

 どれだけ、しがないヤクザのオレとはいえ、保育園児から預かった1ヶ月分の彼の収入(お小遣い)を着服してしまうほど、ギリギリ落ちぶれてはいない。

 白の手袋をはめ、慣れた手付きでショーケースから指輪を取り出し、プレゼント用に包装する女性店員の姿を英須は、じいーっと凝視していた。

 目の前のひとつ一つの光景が、みんな幸せにつながっている気がした。

 ほんの少し前までの、10年にも及ぶ懲役生活が色褪せ、今なら笑って振り返るコトができそうだった。あれだけ辛かったコト、苦しかったコト、孤独だったコト、永遠に感じた時間のコト、絶望の狭間でのたうち回り途方に暮れたコト、恨み辛みをつのらせてきた刑務官の名前まで、オレの中で風化しようとしていた。

 今のこの暮らし、この場所だけは、失くしちゃいけないと思った。

 いつまでも、この幸せが続いて欲しかった。




「ないしょやんなっ!」

 デパートの帰り道、どうしてこんな愛らしい顔をするのだろうと思える笑顔で、英須が同意を求めた。

 明日は英須にとってのママ、『くみちょう』にとっての姐さん、もとい彼女の23回目のバースデーだった。

 同じ誕生日プレゼントを贈るのなら綺麗なお金でプレゼントを贈ってやりたいと、アホはアホなりに考えたオレは、知り合いの建築現場で10日間、汗を流した。刑務所の中での作業ですらサボるコトしか考えていなかったオレが、初めて地下足袋を履き、泥にまみれた。

「そうやで英須。明日まで絶対にママにゆうたらいかんでえ」

 英須とオレは明日の当日まで素知らぬフリを決め、ヒカリを驚かすコトを誓いあった。

「くみちょうっ、おとこどうしのやつかっ」

「おうっ、男同志のやつや」

 2人はまたひとつ、契りを交わしあったのであった。ママにかくれて......。




 帰宅後の英須の『動き』はそりゃあ危なっかしかった(後日談だが、ヒカリに言わせれば、オレのほうも可哀想なくらいオドオドしていたらしいが)。

「どうしたんよっ、英須?」

 ヒカリの回りを、嬉しくて仕方ないといった感じでまとわりつく英須に『職務質問』が飛んだ。

「えぇっ、なんもないやんな~っ。くみちょうっ」

 あきらかに動揺しながら、オレへ話を振り、場を凌いでみせた。

「お、おう。おうよっ! ほんまになんもないでっ。ほんまやでっ」

 ひきつった笑顔で、そう答えたオレだったが、よくよく考えれば──バレバレでんがな──である。しかしこの時のオレは、そんなこと露とも疑わず、ヒカリの鋭い目を盗んでは、英須と2人で意味ありげな笑みを浮かべたのであった。

 まさか、翌日のプレゼントを渡した時の、あのびっくりした顔が演技だったとは......。やはり女は、生まれもっての女優である。

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写真はイメージです