前回までのあらすじ
2012年10月、覚醒剤の譲渡や使用などで懲役二年四月の刑をくらい月形刑務所で服役中だった後藤武二郎は、ある日、たまたま目にした職業訓練募集の張り紙に深く考えず応募したところ、まさかの当選。住み慣れた北海道を離れ、九州は佐賀少年刑務所へ移ることになってしまった。
手紙
2013年(平成25年)9月13日
同じ懲役の仲間でシャバでも会いたい奴ってのは確かにいるよ。
しかし刑務所側としてはもってのほかだ。
ノートに連絡先なんか記載してないかチェックもある。
そんなことだから、先に出る奴はシャバから連絡先を記した手紙やハガキを一枚入れる。
宛名が本名だともちろんつい最近まで受刑していた者だとバレるから、
懲役は受け取ることはできない。
すると手紙を配布する係のオヤジから"出所時交付"が一通と告知される。
要は今は渡せないが、出所の際に渡すという物で名前ももちろん教えてくれない。
先に出所した奴が、中の奴で同じ工場の人間と、何人もこんな約束をしていると、
一度に数名の人間がこの出所時交付の告知を受けることになるので、
つい最近出所した奴を考えればおのずと誰から来たのか皆分かる。
ところがいつのまにやらこの件に関しては大変厳しくなったらしく、
満期出所の人間には全く関係のない事なのだが、
仮釈放を目指す人間に対しては
この出所時交付となっていた手紙の全てを廃棄するようにと
出所近くなった人間に刑務所側は迫るのだ。
これまで約束してしまっている人間には痛い話だ。
なんせ刑務所側の決めゼリフは、
廃棄できないのなら仮釈は取り消し、もしくは延期という怖いものだ。
この初犯少年刑務所なら、再犯に結びつかない対策のひとつとして納得もいくが、
北海道もそうらしく、皆頭を悩ませていた。
ここでも再犯刑務所から来てる仮釈放間近の奴が呼ばれて言われた。
それでも彼は、手紙を捨てるなら仮釈放はいらないと言い放った。
約束を破る事はできないというのだ。
男だね。
え?俺が聞かれたら?
当たり前だよ
「はい。ぜーんぶ捨てちゃってください」と即答だ!