【ここまでのあらすじ】3人の命を殺めた罪で拘置所に収容中の藤城杏樹。杏樹の心の支えは、まめに面会に来てくれる恋人のヒカリやヒカリの子、英須(えいす)だった。一審の裁判で死刑判決を受けた杏樹に、控訴してほしいと必死に訴えかけるヒカリ。その姿に心が揺れる杏樹だったが、自分がしでかしてしまった罪の大きさが杏樹に控訴をためらわせる。そんなある日、杏樹はぼんやりとヒカリとの出会いを思い返していた。
連載小説『死に体』第29回 第ニ章(七)
「くみちょうは、お仕事なにやってんのっ。かいたい屋さんかっ?」

保育園からの帰り道。たこ焼き屋に電気屋、そしてコンビニの横には、経営本当に大丈夫か、と思わず心配してしまうほど寂れたプラモデル屋が並ぶ道のりをオレと英須はおしゃべりというか、可愛い刑事(?)からの職務質問(?)みたいなものを受けていた。
ピョコンピョコンとオレの3分の1の歩幅でオレの左横を歩く英須の『得意技』は──ダッコして──だったが、今日は機嫌がよいのだろう。いつもの得意技を発動させるコトなく、オレを見上げながら尋ねてきた。
「くみちょうかっ?」
どこで覚えてきたのだろうか、いつしか英須はオレのコトを『くみちょう』と、教えてもいないのに勝手に呼ぶようになっていた。オレもそれに合わせて、英須と会話する時には、自分のコトを『くみちょう』と言った。
英須の『職質』にオレは、「くみちょうはな~っ」ともったいぶったような言い方をしながら、言うか言うまいかという顔を作った。
「なんなん、なんなんっ! 教えてやっ! かいたい屋さんかっ!」
ユンボやシャベルカーが大好きな英須は、オレをどうにか解体屋に仕立て上げたいらしい。
「だって、英須、おしゃべりやから、すぐみんなにゆうからな~っ」
「ゆわへんわっ! 英須おしゃべりとちがうわっ! ママの体重もママがゆうたらダメッてゆうてたから、ゆわへんわっ!」
オレは笑ってしまった。ヒカリは英須にそんなコトをしつけてるらしい。
くだんのゲームソフト事件後、1ヶ月もしない内に、オレとヒカリは互いのマンションを行き来する同棲を始めていた。