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日本の裏社会で今、なにが起ころうとしているのか?

山口組実録シリーズ 「菱の血判」その① ~分裂~

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今年で創立百周年を迎え、また司忍組長が六代目に就任して10年目となる祝いの年に、山口組は分裂した。構成員1万人を超える大組織の分裂である。抗争が発生するようなことはないのか、市民が被害にあうことはないのか、そもそも分裂の原因はいったいなんなのか、捜査当局のみならず一般社会にもじわじわと不安が広がりつつある。そこで山口組の事情に詳しい藤原良氏に解説をお願いしたところ、快く了解をいただいた。心よりお礼を申し上げたい。


キーワードは「別れ」と「分かれ」


 
「東京オリンピック(オリンピック利権)を独り占めにするからや」
 こう言い捨てた某組長の表情は、カネ本位の利権争いに埋没する拝金主義的商人のそれではなく、ただただ「裏切られた男の顔」だった。


 平成27年8月。国内最大最強と言われるヤクザ組織・六代目山口組が大分裂した。

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 血で血を洗い、「ケンカの山口」とまで言われたこの組にとって分裂劇は初めての事ではない。しかし、これまでの分裂劇と今回の分裂騒動が大きく異なる点は、過去のトップ争いによる分裂や抗争の延長線上的内部対立ではなく「多くの組員たちの離脱による結果」としての分裂であった事だ。

 分裂とは、1つの組織や個体がそれぞれの単位で2つに分かれる事を言うが、今回の六代目山口組の分裂劇は「離脱による別れ」と捉えた方が真実である。

「分かれ」ではなく「別れ」。特に、これまでの山口組史の中でも常に山菱の代紋を死守してきた保守本流である六代目山口組若頭補佐・山健組が離脱した事が、このたびの分裂劇の特異性を物語っている。

 直系組長の輩出数と所属組員数の多さから一時は『山健にあらずんば山口組にあらず』という言われ方もしたが、正確には「山菱と共に生き、山菱と共に死ぬ」のが山健組である。

 その山健組が、六代目山口組に別れを告げたのである。


決定的なきっかけは東京オリンピック


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 平成25年9月8日に東京での五輪開催が公式発表された。東日本大震災の復興に翻弄されていた日本にとって五輪開催はまさに吉報であった。長引く経済不況、国際社会の中で低迷を続ける日本にとってこの吉報は政府だけではなく一般国民ひとりひとりにとっても明るくて嬉しいニュースであった。

「ヤクザであっても正業を持て」と言われ続ける山口組では多くの組員が正業に就いており、五輪開催は山口組々員たちにとっても大きな吉報以外の何ものでもなかった。

 法律により、暴力団員及びその関係企業は様々な事業への参加に制限がなされてはいるが、人手不足、資材不足、独占禁止法、なくならない裏取引現場──という日本の産業の根本的な問題は解決したわけではない。したがって、各事業への参加が制限されている者であったとしも、現実の職域には働き場所が無数に存在している。良し悪しで言えば彼らに任せた方が合理的としか言いようがない領域もまだ多く存在しているのだ。

 東京オリンピック開催に向けて様々なプロジェクトが開始された。歯に衣を着せずに単刀直入に言えば、六代目山口組にとっても、オリンピック利権という莫大な利益を生む舞台が舞い込んだのである。

 これまでの山口組では、多少の隔たりはあっても、ひとつの利権に対して各傘下組織に、それなりに分配利益が運ばれるように、組長や執行部による采配が行われていた。

 ヤクザは外資系企業でもなければ国内大手企業でもない。ヤクザごときが「利権の分配」だ「采配だ」と言えば非難の的でしかないが、ヤクザにもヤクザなりに生きる術が必要であり、ヤクザにもヤクザ同士の道理がある。それが日乃本に暮らす者であれば誰にでもあり、また誰であっても守らなければならない筋道であると解釈して頂ければ幸いである。

 山口組が六代目時代に入ってから、その采配にこれまでとは違う異例が生じ始めた。それが俗にいう「名古屋支配」である。