原点回帰するヤクザたち
氏曰く、以前は「上」に話を通さずに、自分の裁量の範囲だけで扱っていたシャブだったが、現在では責任ある幹部が「詐欺や危険ドラッグに手を染めるくらいなら、シャブをシノギにする」と公言しているというのだ。
「シノギにするといっても当然街中のガキを掴まえて売ったりするわけではない。きちんと覚せい剤のなんたるかをわかっている人間だけで密なネットワークを築いている。要するに原点回帰。ヤクザに対してあれはダメ、これもダメと当局がいうなら、カタギと一緒にできることをやろうという発想は捨てるしかない。ヤクザの本分に立ち返って、ヤクザにできることをするしかないんです。仲間とそう言い合ってますよ(笑)。我々も生きていかないといけませんから」
素人には売らず、責任を持って信頼できる横の繋がりでシャブを捌く。「結局、俺らは自分で手を汚して、地べたを這いずり回って生きていく稼業なんです」と氏は言い、さらにこう言葉を足した。「これからのヤクザはとことん外道になるか、本気で任侠をやるかしかない」と。
シャブ屋が持つ独特の倫理観
もちろん、氏の捌いたシャブはやがて末端に行き着き、結局は一般人を蝕むのかもしれないが、手を汚すことも長い懲役も覚悟の上で扱っている以上、「足を洗えばいいじゃないですか」と筆者は言うことができなかった。
筆者はシャブ中を嫌悪するが、シャブを扱っているからと言って、正直、氏を外道とは思っていない。氏は取材に際し、いろいろ人生訓を聞かせてくれることはあるが、筆者に対して恫喝の言葉を吐いたこともなければ、どんな類のビジネスを持ち掛けたことも、取材の返礼を求めたことも一度もない。ましてやシャブとの関わりの気配を見せたことなどあるはずもない。
それにしても当局の締め付けにより、カタギ思いの任侠の徒がシャブ屋をやると腹を括るのは、なんとも皮肉な話だ。(2014年11月21日公開)
(取材/文=李白虎)
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