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その女が注射器を捨てるまで 第116話

合否発表の知らせが届いた。

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〜第五章まで〜
 シャブ中仲間の裏切りにより覚醒剤使用で再逮捕。精神病院から刑務所での懲役生活を終えてシャバに戻った玲子を待っていたのは、どこに行くにもつきまとう両親からの監視の目だった。しかし旧友やママ友から励まされ、過去の過ちを告白した自分を受け入れてもらえた時、母との確執、そして将来の生活を考えて下した決断は「独り立ち」すること。最愛の子どもを残していくことだけが心残りだったが、人生を再生するため、玲子は再び東京へ向かう決心をしたのだった。


<最終章16 通知>

これでダメならあきらめるしかない......

 その日もやっぱり早くに目を覚まし、あたしはたっぷりの午前中をそわそわと過ごした。

 ──なんだか前回と同じだ。

 不吉な思いが頭をよぎって、慌ててそれを否定した。一度じゃなくて、何度も何度も。


 そして、午後。もうすぐ二時というときに、バイクの音とポストのガチャガチャと鳴る音。

 ひと呼吸置いてから郵便受けを見に行き、入っていた封筒を手に取る。

 すぐに封を切りたい衝動を抑えつけて、自分に平静を装いながら、わざとゆっくり部屋まで戻る。

 ──ほら、前のときとは違うでしょ?

 笑っちゃうような、ちっぽけな縁起担ぎ。
 それでも、やってみると少しだけ、合格の可能性が高まるような気がした。

 テーブルの前に正座をする。

 テーブルの真ん中に、真っ直ぐ速達の封筒を置いてみる。

 膝の上に手を置いて、静かに目を閉じる。お祈りのつもりで。

 一拍置いて目を開けて、努めてゆっくり手を伸ばし、封筒を手に取って、人差し指と親指で摘むようにして封筒の口を破ってゆく。

 切り口が真っ直ぐになるように、ゆっくり、丁寧に破る。

 三分の一ほど破ったところで、気づく。

 ──キレイに封を開けたいなら、ハサミを使えばよかったじゃない。

 一人の部屋で、ちょっぴり恥ずかしくなり、同時にやっぱり緊張している自分に気づく。


 ともかく、今さらハサミで切っても仕方ない。
 そのまま指で封を切る。

 真っ直ぐに切ったつもりなのに、切り口には歯形のように小さな凹凸が規則的に並んだ。

 封筒から通知を取り出す。

 三つ折りになった紙の表面には、確かに「阿佐見玲子」の名前と、あたしの受験番号。

 ゆっくりと開く。

 と、考える隙もなく、得点と一文が目に飛び込んできた。

 九十四点。

 その下には「おめでとうございます」の文字。

 部屋の空気が止まる。

 視界が真っ白になり、真っ白い空間に、手にした用紙だけがぽっかりと浮かび上がる。

 ぽっかりと浮かび上がる用紙も真っ白で、その真ん中には黒々とした文字が、くっきりと浮かび上がっていた。

 九十四点。おめでとうございます。

 用紙の下の部分には、病院の診察券にも似た小さなカードが貼りつけてあった。コーディネーターの身分証明書だった。

 弾かれたように、思わず立ち上がる。

 立ち上がるときに、思いっきり左の膝をテーブルにぶつけた。

 ゴツン!

 骨にまで響くような衝撃で、正気に返った。

 前の道を走るクルマの排気音とか、友達を呼ぶ子供の声とか、近所の騒音が急に耳に雪崩れ込んできて、真っ白だった視界にもあたしの部屋が戻る。

 合格だ......。


 合格だ!


 合格だ!!


 足が勝手に動いて、あたしは無意味に玄関先に行き、そこから畳部屋に引き返して、窓際に寄って窓を開け、外の手すりを掴んで、離し、窓を開け放ったまま、またテーブルの前に戻って座った。

「合格したんだ!」

 舞い上がっていた。

 現実感のないまま、気づくと受話器を握っていた。

 人差し指の先がプッシュボタンの上を、勝手に行ったり来たりした。


(つづく)



shabu116tum.jpg

ついに実った



(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/