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連載小説『死に体』第4回

第4話 執行の日を待つだけの死刑囚のオレだけど、彼女はいた

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長めのプロローグ 4

 生きる希望は確かにもうないけれど、ささやかな楽しみや小さな喜びすらまったくないというわけではない。

 胸に響く小説と出逢えば社会の人と同じように感動するし、毎週楽しみにしているラジオ番組だってある。鬼ガワラのコンチクショウは論外としても、浅田のおっさんや宮崎なんかと会話できる拘置所内の運動時間だって欠かせやしない。寒い日、湯船に身を沈めて人心地つけば、「極楽~極楽~っ」と近い将来逝くかもしれない地名?が口からこぼれ出たりする。

 なによりもだ。こんな落ちぶれ果てて、世間から悪鬼のごとく憎まれ、親にさえ見捨てられ、ヤクザ組織からも追放されたというのに(我ながらボロカスだな......)、毎月2回の面会にはお供の英須(エイス)を連れて逢いに来てくれる彼女だっている。2日と空けず手紙だって届けてくれる。そんな彼女と英須の存在がどれだけオレに生きる喜びを与えてくれているか。

 まれにある。まれに聞く。

 死刑囚の生い立ちや家庭環境に憐憫の情を抱き、その流れから獄中結婚してしまうような、ある意味、本当にすまんが独りよがりの思い違いの愛とは、オレの場合、わけが違う。

 なにもそれが悪いと言っているのではない。上下をつけているわけでもない。人それぞれ思想や価値感が違うのはもっともな話だし、死刑囚の人道にももとる残虐な所業を、大いなる愛と大いなる勘違いで善意に解釈し、「力になってあげたい」と思う気持ちは、オレが今、死刑囚という立場だけになおさら素晴らし思う。

 勘違いで。失礼、その人のおかげで、どれだけの死刑囚が救われてきたことか。

 チクリチクリと厭味を言っているのではない。素直にオレは褒めとるのだ。性格が若干、歪んでいるだけなので、気にするな。

 って、気になるわな。


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 オレの場合はこうだ。死刑囚となって、殺されるためだけに生きる運命となって久しいが、今では異国の地となってしまったシャバに生息していた頃「ヒカ」はオレの彼女だった。

 だがオレが「生前」、ヒカのことを大事にしたとか、ヒカや英須を助けるためやむを得ず犯罪を犯してしまったとか、その結果、今このように死刑囚になってしまったとか、そんなドラマチックな美談などあろうはずがない。

 はっきり言って、この両の手にワッパをはめられるその瞬間まで、オレは彼女を傷つけた。苦しめた。泣かし続けた。

 もうやってしまったことは戻せないとしても、せめてこの頃に戻って彼女だけは大切にしてやりたかった。それほどオレは、彼女を不幸にした。

 そんな男なのに、彼女は
「ヒカにも、こうなってしまった責任があるから......」と言って、いまだにオレを見捨てようとはしない。


「なんで、なんでこんなオレなんかに優しくしてくれんねん......」




沖田臥竜
兵庫県尼崎市出身。日本最大の暴力団組織二次団体の元最高幹部。前科8犯。21歳から29歳までの8年間服役。その出所後わずか半年で逮捕され、30歳から34歳までまた4年間服役と、通算12年間を獄中で過ごす(うち9年間は独居)。





写真はすべてイメージです。