>  >  > 食事と家事と睡眠以外の時間は、すべて勉強に当てた。孤独な戦いだったが必死に。
その女が注射器を捨てるまで 第105話

食事と家事と睡眠以外の時間は、すべて勉強に当てた。孤独な戦いだったが必死に。

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〜第五章まで〜
 シャブ中仲間の裏切りにより覚醒剤使用で再逮捕。精神病院から刑務所での懲役生活を終えてシャバに戻った玲子を待っていたのは、どこに行くにもつきまとう両親からの監視の目だった。しかし旧友やママ友から励まされ、過去の過ちを告白した自分を受け入れてもらえた時、母との確執、そして将来の生活を考えて下した決断は「独り立ち」すること。最愛の子どもを残していくことだけが心残りだったが、人生を再生するため、玲子は再び東京へ向かう決心をしたのだった。


<最終章5 誤解されないための証明>

試験合格を目指して!

 受験勉強中も、あたしは親への仕送りを続けた。

 仕事を辞めて収入は途絶えたけれど、それまで無駄遣いはしなかったから、貯金も少しだけできていた。
 その貯金を切り崩しながら、自分で決めた額を、それまでどおり毎月二十五日に送金し続けた。

 送金を続けたのは、とにかく親を心配させたくなかったから。

 毎月の送金は、東京でまじめにやっていることを、父や母に証明できるほとんど唯一の手段だった。

 大金を送っていたわけじゃないし、毎月二十五日に送金するというルールはあたしが勝手に決めたことだけれど、毎月決まった日に決まった額を送金することは、あたしにルールを守る意志と実行し続ける力があることを、両親に伝えてくれるはず。

 もし送金をやめてしまったら、たとえどんな理由があったとしても、親は心配するだろう。

 言葉を尽くしてその理由を説明しても、言い訳としか取ってくれないだろう。

 電話にさえ出てくれないのだから、理由を説明したくても、ちゃんと聞いてはもらえないだろう。


 そして、親は勝手に「また覚醒剤を使いはじめた」と思うだろう。

 そう誤解されるのは、もう耐えられない。
 親を苦しめたくもない。
 だから、送金だけは続けた。


 受験生活では、参考書や問題集を買うほかは、とくにお金を使うこともない。

 朝ごはんを食べたら図書館へ行き、閲覧室で参考書を読み耽り、ひたすら問題集を解く。お昼には一旦アパートに戻って、昼食を済ませたら、また図書館へ行き、午前と同じくひたすら勉強をするだけ。夕方に図書館が閉館したら部屋に戻り、晩ごはんを作って食べたら、さらに寝るまで、また勉強。

 食事と家事と睡眠以外の時間は、すべて勉強に当てたから、無駄遣いをする暇もなかった。

 でもそれほど勉強をしても、覚えるべきことを消化できていない気分だった。

 福祉住環境コーディネーターの仕事は「医療」「介護福祉」「建築」の三本柱で成り立っていて、つまり試験問題もそれぞれの分野から出題される。覚えるべきことが複数の分野に渡っていた。

 コーディネーターの資格を受験する際、多くの人は専門の受験予備校に通うとも聞いたけれど、経済的な余裕のないあたしは、自力で勉強する道を選んだ。

 いえ、正確に言うと、予備校のパンフレットを取り寄せてはみたけれど、授業料の項目を見た瞬間に、予備校に通う選択肢は自動的になくなった。


(つづく)



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一人きりでの勉強は不安だが、やるしかない私には苦痛ではなかった(写真はイメージです)



(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/