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その女が注射器を捨てるまで 第104話

本当にやりたいと思える目標が見つかった。簡単なことではないけれど。

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〜第五章まで〜
 シャブ中仲間の裏切りにより覚醒剤使用で再逮捕。精神病院から刑務所での懲役生活を終えてシャバに戻った玲子を待っていたのは、どこに行くにもつきまとう両親からの監視の目だった。しかし旧友やママ友から励まされ、過去の過ちを告白した自分を受け入れてもらえた時、母との確執、そして将来の生活を考えて下した決断は「独り立ち」すること。最愛の子どもを残していくことだけが心残りだったが、人生を再生するため、玲子は再び東京へ向かう決心をしたのだった。


<最終章4 自分の生きる目的>

本当に自分のやるべきことを求めて

 今度は自分が助ける番だ。

 あたしは生活に余裕があるわけじゃない。でも、助けられて、どうにか立ち直れたのだから、その恩を返したい。

 具体的な職種は、すぐに決まった。

 福祉住環境コーディネーター。

 高齢者や障害者の住まいを暮らしやすいように、いわゆるバリアフリー住宅にリフォームする仕事。

 お年寄りの健康状態や障害者の症状に沿ってアイディアを出し、必要に応じて行政の補助金を申請したり、民間の保険サービスを利用したりして、限られた予算の中で調整しながら、設計図を起こし、工事を管理監督する仕事。

 高齢化社会が進むほど必要とされる仕事で、看護師や介護福祉士に比べれば肉体的な負担は格段に低いから、腰痛持ちのあたしでも無理なく続けられる。性別はもちろん、学歴や年齢に関係なく受験資格があるのも、あたしにとっては大きなポイントだった。


 でも、やっぱり、一番の魅力は、本当に助けを必要とする人たちを手助けできるところ。

 ──福祉住環境コーディネーターになろう!

 薄暗くてじめじめとした雑木林をかき分けたら、目の前に真っ直ぐな一本道が伸びていた。そんな気分だ。


 目標が見定まると、あたしは仕事を辞めて、受験勉強に集中した。
 多少の不安はあったけれど、迷いはなかった。
 むしろわくわくしていた。

 受験勉強は生やさしいものではなかった。

 資格を得るためには、介護の知識はもちろん、福祉制度や保険の知識、さらには建築に関する知識も必要とされた。

 看護師の免許と経験があったから、介護に関する勉強はスムーズに進められたけれど、福祉制度や建築に関してはゼロからのスタートだったので、単語の意味を調べるところからはじめなければならず、勉強は思うようにはかどらなかった。

 でも、勉強すること自体は辛くはなかった。むしろ楽しいことだった。やりたいものに向かって行く作業に没頭できたのだから。

 気分は浮き立っていた。
 本当にやりたいと思える目標が見つかったから。

 生きる目的や生きるうえでの目標を、見いだせなくて苦しんでいたあの頃が嘘のようだった。

 目的や目標の見つけ方なんて、たぶんどこにもない。

 だからやみくもに苦しむしかなかった。

 今は、「助けを必要とする人たちの手助けをする」という目的があって、「そのために福祉住環境コーディネーターになる」という目標がある。そして、目指す資格を取るための方法は、ある。
 ひたすら勉強すればいい。目標があれば、あとはそれに向かってがんばるだけ。

 今のあたしにとって、それは簡単なことではないけれど、決して苦しいことでもない。

 精神病院での寝たきり生活が嘘だったかのように、あたしの毎日は充実していた。


(つづく)



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重くのしかかっていた雲が晴れたら、道が広がっていた



(取材/文=石原行雄)


石原行雄 プロフィール
闇フーゾクや麻薬密造現場から、北朝鮮やイラクまで、国内外数々のヤバい現場に潜入取材を敢行。著書に『ヤバい現場に取材に行ってきた!』、『アウトローたちの履歴書』、『客には絶対聞かせられない キャバクラ経営者のぶっちゃけ話』など。
http://www008.upp.so-net.ne.jp/ishihara-yukio/